2.植物の世界
(15)植物と学名
(611)カスタネットと学名
「あっ! かわいいクリですね。あれ? でも変だわ。本物のクリではないわ。」
「そうだね。よく見ると、クリの形をした木だよ。」
「そうか! 分かったわ。クリの形にくりぬいたり、けずったりしたのね。」
「何だか、どこかで見たことのあるようなものだね。あっ! カスタネットだ。」
「ピンポーン。そうだよ。カスタネットだね。これはねモンタ博士の孫がね、3才になったお祝いのお誕生日プレゼントなんだよ。」
「どんな音がするのかな。聞いてみたいわ。」
「ぼくも聞きたいです。モンタ博士! どんな音がするんですか。」
「とってもいい音だよ。木のあたたかみが感じられる音で、それはそれはいい音なんだよ。そのうち借りてきてあげるよ。」
「それにしてもカスタネットとクリって、何か関係があるのですか。」
「いい質問だね。うれしいね。今日はクリの形をしたカスタネットについて、説明するね。」
「モンタ博士! クリとカスタネットとどんな関係があるのですか?」
「クリのことを英語で何というか知っているかな。」
「あっ! 分かった。マロンだ! いや、モンブランかな。」
「残念でした。マロンはフランス語だね。それにモンブランというのは、ヨーロッパの山の名前でね、栗のクリームを山のようにしたケーキだね。東京の自由が丘の洋菓子店が世界で初めて作ったケーキなんだよ。」
「それでは、クリとカスタネットとは関係ないですね。」
「今、英語をはじめヨーロッパの各地で使われている言葉は、それよりももっと古い言葉であるラテン語やギリシャ語からできたそうなんだよ。」
「何だか、むずかしいお話になってきたなあ。」
「まあまあ、そんなことを言わないで、お願いだからお話を聞いてね。」
「そのラテン語とかギリシャ語とかいうのと、カスタネットとどう結びつくのですか。」
「モンタ博士の持っている『植物学名辞典』という本にね、『Castanea』という言葉があってね、それは『クリの木』を意味すると書かれているんだよ。」
「えっ! いま、何と言ったの。学名って、何かな? またまた、むずかしくなってきたぞ。」
「まあまあ、ごめんね。しんぼうして聞いてね。クリのことを日本語では、栗と言うけど、現在のイタリア語では『Castagna』、スペイン語では『Castana』、ドイツ語では『Kastanie』、英語では『Chestnut』、フランス語では『Chataigne』というんだけどね、つまりね、いろいろな言葉があるけど、それらは、ラテン語の『Castanea』(カスタネア)がもとになっているということなんだ。」
「ふーん、横文字までたくさん出てきて、ちんぷんかんぷんMAXだな。」
「つまりですね。モンタ博士。カスタネットという名前の由来は、古いラテン語からきているということですね。」
「そうなんだよ。みんなが知っているもの、ふだん使っているものでも、ラテン語やギリシャ語がそのまま現在も使われているものが、いっぱいあるということさ。」
「えっ! 他にもいろいろとあるんですか。」
「そうだよ。お花の『コスモス』『チューリップ』『フリージア』とか、野菜の『アスパラガス』とか、アイスクリームの『バニラ』とか、シュワーとする飲み物の『コーラ』とか、えんぴつの『モノ』とか『ユニ』とか、みんながよく使うノートの『ジャポニカ学習帳』とか、みんなラテン語やギリシャ語なんだよ。」
「へえー! そんなにあるんですか。ところで、そのラテン語とかと学名って、どんな関係なんですか?」
「その関係を説明する前に、恐竜の『ティラノサウルス』(Tyrannosaurus)とか、『ステゴサウルス』Stegosaurus)とか、『トリケラトプス』(Triceratops)とかも、もともとはラテン語なんだよ。」
「えっ! 恐竜がどうしたの。」
「えっ! 恐竜とラテン語と、それから、学名とか何だか頭がこんがらがっちゃいました。」
「そうだね。ラテン語と学名については、また、お話ししようね。」
クリの木の思い出あれこれ⋯⋯
クリの学名については上記で詳しいので、クリの木との思い出話などを少し記します。それは、昭和の始めの頃、私の父のお話です。私の父は貧農であり、高等小学校までしか行けなかったそうです。それでも、勉強はよくでき、級長を務めていて信望もかなりあったとのこと。そんな父は自分の勉強机が欲しくて山に行ってはたくさんのクリを集め、売った代金で机を買ったそうです。もちろん、その机は今はありませんが、私が小学生になる頃までおさがりで使っていたことを覚えています。
私が小学生の頃、兄たちとよく栗拾いに行ったことが楽しい思い出としてあります。古くなったぼろいシーツを次兄と一緒に四隅を持ち、長兄が栗の木に登り、大きく揺すると栗の実がたくさん落ちてきました。それらの栗はシバグリ(山栗)というもので、小粒でしたがとても甘かった記憶があります。それに対して、当時は屋敷クリと言っていましたが、栽培品種の栗は、その大きさは比較できないくらいに見事でした。
そんなこんな栗との出会いがありましたが、植物に興味を持ち始めてから、栗についていろいろと知識を増やしました。栗の材はとても固く腐りにくく、耐水性があり、雨にも大丈夫で、全国の鉄道の枕木にしていたそうです。現在はコンクリートになってしまいました。その後、廃材となりましたが、今ではガーデニングの敷木としてとても人気があり、ネットなどでは1本1万円もするそうです。
なお、クリは、暖帯(カシ帯)と温帯(ブナ帯)の中間地点に生育する木であり、クリ帯と呼ぶ学者もいるそうです。樹齢が200年ほどの大木になると、胸高直径が1m近くあり、大変立派で風格があります。それらは、東京近郊では三頭山という山に行くと、クリの巨木がたくさん見られます。