2.植物の世界
(3)被子植物(双子葉類)のなかま
(39)オオイヌノフグリのひみつ②
「ねえ,ねえ,この前のお話の続きをしようよ。だって,私,オオイヌノフグリのまたまた新しい名前を考えちゃったんだもん。」
「ほほー。それは,感心だね。それで,何という名前をつけたの。」
「オオイヌノフグリの花って,青でしょ。でも,そういう色を昔の人は,瑠璃色といったそうなのよ。それで,つけた名前が『るり色小花』どう? なかなかおしゃれでいい名前でしょ。」
「ほんとうだ。ステキな名前だな。ぼくももっともっと地面に顔をくっつけるようにして,いろいろと観察するぞ。あ! こんなのどうだ。」
「新しい名前考えたの。」
「発表します。花をよく見ると,二本の角があるみたいだから,青色角だし花なんてどうかな。」
「けっこう。けっこうだね。花に勝手に名前をつけてはいけないなんてきまりはないからね。どんどん考えてごらん。これも草花と仲良くなる一つの方法だね。楽しみながらやるんだよ。そうすると観察力ももっともっとついてくるよ。」
「あれ? 変だぞ。確かに変だぞ。どうしてかな???」
「どうしたの。オー君。何が変なの。教えて。」
「また,何かを発見したみたいだね。それで,どうしたの。」
「あのさ,この前,お昼休みにみんなでドッジボールをした後にさ,オオイヌノフグリを見つけたよね。その時,花ちゃんがお花をつんで教室に持ってきたよね。」
「覚えているわ。それが何かいけなかったのかしら。」
「いいよ,いいよ。それでいいんだよ。花を採ると,すぐに自然破壊だなんていう人がいるけど,モンタ博士は,どうかなと思うんだ。実際に自分の手でとってみて,しっかりと観察することが大切なんだ。たくさん咲いている花なら,採ってもつみにはならないね。むしろ,そのほうがずっといいことだと思うな。自然を知らないで,何でもかんでも,自然を守れというのは,どうかと思うね。校庭にある花はいくらとってもいいと思うよ。ところで,何だっけかな。何が変なの。オー君。」
「この前,花ちゃんが教室に持って来た時に,ポロンと花びらがとれたと言っていたよね。」
「そうだね。オオイヌノフグリの花は,4つの花びらに分かれているようだけど,本当は,花びらの下の方が,くっついているんだね。こういうのを合弁花というんだよ。」
「合弁花というのは,ツツジやアサガオみたいなものでしょ。それから,離弁花というのは,サクラやアブラナみたいな花でしょ。」
「合弁花とか,離弁花とかいうことじゃないのさ。ポロンと花びらがみんないっしょに落ちたということは,もちろん花びらがもとの方でくっついているからだよね。だから,オオイヌノフグリは合弁花なんだろう。でも,ぼくの言いたいことは,そんなことじゃないんだよ。つまり・・・。」
「つまり,何なのよ。早く言ってちょうだい。」
「つまりね,ぼくが見た,いや,ぼくがさわっても,花びらがぜんぜんポロンと落ちないんだよ。」
「な,な,何と!!! オー君はすごいことに気がついたんだね。すごい!!!」
「何がそんなにすごいんですか。モンタ博士。」
「よくぞ聞いてくれたね。オー君はオオイヌノフグリを本当によく観察したね。目で見ただけでなく,自分でも花びらにふれたところがすごいね。手でふれてもみることは,やっぱり大切なんだよ。」
「だから,どういうことなんですか。」
「ぼくが手でふれたときには,ポロンと落ちないで,花ちゃんのときだけどうしてポロンと落ちたの。」
「それは,つまり,時間だよ。花にふれた時刻が問題なんだよ。」
「ますます分かんない。なんだか推理小説みたいだわ。」
「たぶん,オー君がオオイヌノフグリの花びらにさわった時間は,午前中だろう。それも,だいぶ朝の早い時間じゃないかな。そして,花ちゃんが手にふれた時間,いや時刻は午後だったと推理できるね。ここにこの不思議さをとくカギがあるんだよ。」
「そうだ。ぼく,学校に来て,すぐにオオイヌノフグリを見に行ったよ。」
「朝と午後? これが何か関係あるの。」
「つまりね,オオイヌノフグリという花は,初めは花を閉じたままなんだよ。朝日を受けて花びらを開くのさ。それから,曇ったりすると,すぐに花を閉じてしまう特徴があるんだ。そうしているうちにおしべの花粉がめしべの柱頭についてしまうんだね。これを受粉というんだ。理科で勉強したでしょ。」
「私,覚えているわ。虫たちがやってきて受粉することもあるんでしょ。」
「そうだね。虫たちも活躍してくれるね。でもね。オオイヌノフグリというやつは,夕方になってお日様が沈むころになると,花びらが閉じてしまい,虫たちの力をかりなくても自然に受粉してしまうのさ。こういうのを自家受粉というのさ。そこで,そこでだ。問題であるポロンなんだけど。」
「そうだ。ポロンが問題だったんだ。どうして,ポロンとなるの。」
「それはね,受粉がすんでいれば,もう虫に来てもらわなくてもいいから,それで,ポロンと花びらが落ちてしまうのさ。」
「ということはですね,ということは,ポロンと落ちた花というのは,もう受粉が終わった花ということですね。」
「ふーん。それじゃ,いろいろと指でさわって確かめてみようよ。花ちゃん。」
「そうだね。遊びながらやってごらんよ。遊びながら実験してもいいね。例えば,時間を決めて,1時間ごとに100個くらいずつさわりまくってさ,それを表にまとめたり,グラフにしたら,こりゃ,遊びじゃなくて,りっぱな自由研究になると思うね。」
「何だかおもしろそうですね。ただ見ているだけでは分からないことでも,いろいろとさわったり,においをかいだり,味をみたりして考えていくと,本当にいろいろなことが発見できるわね。」
「これは,植物の世界の話だけではないね,広く生物の世界全体でも言えることだね。」