NO.188

アケビ

「あれあれ? でっけえウインナーだな?」
「ちがうでしょ。オー君,よく見て。」
「そういえば,ウインナーにしては,太すぎるなあ……。」
「え! どうしたの。何だ,こりゃ? 見たことないな……。」
「わたしにも見せて! え! 何これ?」
「先生たちも知らないんですか。こまっちゃうな。」
「と言われても,見たことないもんな……。」
「そうか,そうなのか……。無理(むり)ないかもね。でも,これは,デパートなんかだと,一つ200円とか300円するんだよ。」
「200円! 300円! そんなに高いの? どこで手に入れたの。」
「あるお友達のおうちにいっぱいあるそうでね,わざわざ学校まで持ってきてくれたんだよ。」
「そうだよ。昔の子どもは山に入って採(と)っては,おやつにしたそうだよ。」
「おやつ? それじゃ,食べられるんですか。」
「そうよ。つぶつぶが多いけど,とってもあまいのよ。」
「それでは,いただきまーす。もぐもぐ……,こりゃ,あまいね……。でも……。」
「ぼくも……もぐもぐ……,あまいけど……,種ばっかりだ。」
「種はプイッと,はき出していいんだよ。」
「もぐもぐ,ところで,これは何ていうんですか。」
「実をよく見てごらん。ぱっくりと開(あ)いているだろう。だから……。」
「分かった! アケビだ。アケビって,これだったのか。なーるほど。」
「生き物の名前というのは,その物のようすや形,特徴(とくちょう)からつけられたものが多いんだね。」
「そうだ! カブトムシは,頭の形がカブトだし,クワガタは,クワの形をしているもんな。」
「そうですね。ゆれてさくから『ユリ』でしょ,カエルの手みたいだから,『カエデ』でしょ,大きな根だから,『ダイコン』でしょ,ねじれてさくから『ネジバナ』でしょ……,いっぱいいっぱいあるわ。」
「たけえなーと思うから『タケ』だろ,もーみごとな木だから『モミ』だろ,ほおーと思うから『ほおのき』か……。」
「う……,ちょっとちがうような感じもするけど……。まあ,いいか。」
「ともかくも,生き物と名前って,けっこうおもしろい関係にあるんだね。さあ,それでは,アケビをみんなで食べようか。」

アケビのつぶやき

 ハーイ! 私はアケビです。つるになる植物で,『ジャックと豆の木』みたいに,つるであちこちの木にからんで,どこまでどこまで伸びていきます。私のつるはとても丈夫で,特にミツバアケビのつるはアケビ細工などでも使われます。  アケビは春4月〜5月に,うすいむらさき色の花を咲かせます。花にはおいしい蜜がまったくないので,昆虫たちは花粉を目当てに集まります。では,花粉がない雌花はどうするのでしょう。雌花は雄花そっくりの形をとり,おまけに大きさも倍くらいにして,長い柄をつけて前面に出て目立つように工夫しています。昆虫たちは,りっぱな雄花と間違えて「こりゃ,ラッキー!」と思うのでしょう。  要するに,これがアケビの花のだましのテクニックなのでしょう。そして,長い進化の過程でアケビが獲得してきた「生き残り戦略」の一つなのでしょう。


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