1.身近な自然の観察
(3)季節と生物
2.植物の世界
(8)植物の名前・分類・特性について
(667)春の妖精・春のはかない命
「いよいよ春だね。うれしいね。花ちゃん・オー君!」
「啓蟄も過ぎて、春本番! いろいろな虫も顔を見せてくれるな。」
「そうね。待ちに待った春ですね。お花もたくさん咲きますね。」
「おうちの近くをてくてく散歩しながら、撮ったお花の写真だよ。」
「えっ! また一人でてくてくしちゃったんですか。ぼくも行きたかったです。」
「わたしもです。また一人で行っちゃったら、オー君と同じくプンプンですよ。でも、それにしてもきれいなお花がいっぱいですね。」
「ものすごいです。めちゃくちゃきれいです。感動です。」
「お花の名前も書いてあって、勉強にもなります。ありがとうございます。」
「お花の色も赤・白・黄色、ピンクもあれば青むらさき色もあり、形もさまざまですね。春のお花の写真展覧会ですね。モンタ博士!」
「二人にそう言ってもらうとうれしいな。ところで、これらのお花は色や形がいろいろだけど、ある共通点があるんだけど、分かるかな。分かんないかな。」
「うーん。よく見るぞ! えーっと! あっ! 分かった。どれもみんな地面の近くに咲いている花ですか。」
「さすがだね、オー君! すばらしい。そのとおりだ。」
「それから、地面の近くがヒントになったけど、どれもみんな木の花ではなくて、草ですか。」
「すごいね、花ちゃん! ブラボー! そのとおりだね。ほかに何かあるかな。」
「ふーむ。むずかしいなあ。」
「ふーむ。分かんないわ。」
「オー君が言ったように、地面近くで花が咲いて、花ちゃんが言ったように、草ばかりということに気がついただけですばらしいよ。優秀だよ。あのね、これらの植物は、すべて『スプリングエフェメラル』なんだよ。」
「えっ! 『スプリングエフェメラル』、何ですか、それは? むずかしいなあ。」
「えっ! 『スプリングエフェメラル』、初めて聞きます。分かんないなあ。」
「スプリングは、『春』だね。エフェメラルというのは、『はかない命』という意味なんだ。『春の妖精』とも言われているね。」
「スプリングは分かりますが、はかない命というのがよく分かりませんが。」
「春からほんの短い間だけ花を咲かせ、初夏から夏・秋にはすっかり枯れてしまい、地面の下で養分をたくわえている植物なんだ。」
「それで、はかない命というのですね。」
「地面の下では生きているんですね。」
「そうだよ。1年のほとんどを地面の下ですごし、来年の春に向けて地下茎や球根ですごすんだ。」
「でも、どうしてそんなことをするのですか。花は枯れてもずうっと葉っぱを出していればいいのになあ。」
「そうだね。そう思うだろう。ところがどっこい。そういうわけにもいかないのさ。というのはね、これらの植物はどれも背が低くて、がんじょうでなくてね、林の大きな木たちがたくさんの葉を広げるとどうなるかな。」
「あっ! そうね。大きな木の葉っぱがしげると、太陽の光を受けられなくなりますね。」
「あっ! そうか。太陽の光が届かないと光合成というのができないで、成長できないのですね。」
「そうだよ。ほかの植物たちが目をさます前に、太陽の光が地面にしっかりと届くうちに、成長するということなんだよ。」
「つまり、いち早く太陽の光を利用して花を咲かせるということですね。」
「ようするに、花を咲かせ受粉し、種を作り養分をたくわえるのですね。」
「そのとおり。花が咲いて種ができるまで、たった2週間という植物もあるんだよ」
「へえー。そうなんですか。スプリングエフェメラルの植物たち、すっごいがんばっているんですね。」
「きびしい生存競争の中で、たくましく生きているんですね。」
「なんだかスプリングエフェメラルに、会いたくなってきちゃいました。」
「わたしも会いたいです。まだ咲いているんですか。」
「そうだね。写真もいいけど、今からみんなで探しに行こう。」
「わーい、やったー!」
「みんなで、スプリングエフェメラル探しに、てくてく自然散歩! 出発!」
やさしく見守ってください!
スプリングエフェメラルは、その姿ははかなげでかわいい植物たちですが、まだ肌寒い季節に一気に花を咲かせ、やっと動き始めた虫たちの力を借りて受粉し、種子を作っていく逞しさも持ち合わせています。また、スプリングエフェメラルの多くは何年もかけて養分をためて少しずつ成長し、その美しい姿を見せてくれます。しかし、そのような自然環境は維持していくことが難しい昨今でもあり、心無い人による盗掘などが問題となっています。それぞれの地域で、春の妖精たちがこれからも生き続けていくことができる里山環境を、自治体やボランティアなど、皆の知恵と努力で持続可能なものにしていこう。