東書キッズ

１．身近（みぢか）な自然（しぜん）の観察（かんさつ）
　（3）季節（きせつ）と生物（せいぶつ）
２．植物（しょくぶつ）の世界（せかい）
　（3）被子植物（ひししょくぶつ）（双子葉類（そうしようるい））のなかま
　（11）おいしい植物（しょくぶつ）の世界（せかい）

（665）春（はる）の雑草（ざっそう）採（と）り・その１　カラスノエンドウとギシギシ

「あっ！モンタ博士（はかせ）。何（なに）を食（た）べているのですか。」

「それは、春（はる）の山菜（さんさい）ですか。」

「ふむふむ、なかなかいい味（あじ）だよ。食（た）べてみるかい。」

「春（はる）の山菜（さんさい）と言（い）えば、セリですか。それとも、タラの芽（め）ですか。」

「フキノトウですか。それとも、ミツバですか。」

「そうではないよ。これはね、カラスノエンドウだよ。それから、こっちはギシギシだよ。」

「カラスノエンドウって、あのピンクの小（ちい）さなお花（はな）を咲（さ）かせる植物（しょくぶつ）ですか。」

「ギシギシって、あの大（おお）きな葉（は）っぱで株（かぶ）立（だ）ちになっている植物（しょくぶつ）ですか。」

「そうだよ。おひたしにして、しょうゆやマヨネーズであえたものだよ。」

「カラスノエンドウもギシギシも、どちらも雑草（ざっそう）と言（い）われるものですね。」

「山菜（さんさい）としては、あまり名前（なまえ）を聞（き）かないものですね。食（た）べてもだいじょうぶなんですか。おなかこわしませんか。」

「どちらも何回（なんかい）も食（た）べているけど、だいじょうぶだよ。味（あじ）はおいしいという人（ひと）もいれば、今（いま）いちだという人もいるね。」

「モンタ博士（はかせ）に教（おし）えてもらって食（た）べたノビルは、とてもおいしかったです。お父（とう）さんもビールのおつまみになると、大（おお）喜（よろこ）びしていました。」

「たしかにノビルはどこにでもあり、ネギみたいでおいしかったわ。ところで、ある植物（しょくぶつ）を山菜（さんさい）と言（い）ったり、雑草（ざっそう）と言ったりするけど、どうしてそのように分（わ）けるのですか。どういう意味（いみ）があるのでしょうか。」

「そうだね。まず、山菜（さんさい）とは何（なに）かということだけど、山菜とは、山野（さんや）に自生（じせい）していて、人（ひと）が食（た）べることを目的（もくてき）として採（と）る植物（しょくぶつ）のことだね。」

「それでは、雑草（ざっそう）というのはどういうものですか。」

「『雑草（ざっそう）という名前（なまえ）の植物（しょくぶつ）はない』という言葉（ことば）を残（のこ）したのは、日本（にほん）の植物学（しょくぶつがく）の父（ちち）である牧野（まきの）富（とみ）太郎（たろう）博士（はかせ）だけど、その場合（ばあい）には、野草（やそう）などの自然（しぜん）の植物の価値（かち）の高（たか）さを言（い）ったものだね。一般的（いっぱんてき）には、畑（はたけ）で育（そだ）てる作物（さくもつ）の育成（いくせい）にじゃまになる野草のことを雑草と言っているね。」

「そういえば、野草（やそう）という言葉（ことば）もありますね。これはどんな意味（いみ）ですか。」

「そうだね。野草（やそう）というのは、人（ひと）が育（そだ）てたものではなく、自然（しぜん）の状態（じょうたい）で山（やま）や野（の）に生（は）えているものだね。野草の中（なか）には、病気（びょうき）を治（なお）したり、健康（けんこう）に良（よ）い薬草（やくそう）というものもあるね。それから、反対（はんたい）に毒（どく）になる植物（しょくぶつ）もあり、毒草（どくそう）もあるね。」

「薬草（やくそう）とか、毒草（どくそう）とかいう言葉（ことば）はたしかに聞（き）いたことがありますが⋯⋯。」

「そうだね。もともと植物（しょくぶつ）の研究（けんきゅう）というのはね、本草学（ほんぞうがく）というものがあってね、今（いま）から1000年（ねん）以上（いじょう）も前（まえ）に中国（ちゅうごく）から伝（つた）わってきたものなんだ。本草学というのは、自然（しぜん）に生（は）えている植物が人間（にんげん）の病気（びょうき）を治（なお）すのに効果（こうか）があり、それを中国数千年（すうせんねん）の歴史（れきし）の中（なか）で研究されてきたものなんだよ。毒草（どくそう）でも薬草（やくそう）になるものもあり、複雑（ふくざつ）なんだ。」

「漢方薬（かんぽうやく）というのが、それですね。」

「そうだね。日本（にほん）ではそれをさらに発展（はってん）させて生薬学（しょうやくがく）というものもあるよ。」

「あのう、ドクダミっていうのは、体（からだ）にいいんでしょ。おばあちゃんに聞（き）いたことがあります。それも漢方薬（かんぽうやく）ですか。」

「それはね、民間（みんかん）薬（やく）といってね、昔（むかし）から一般的（いっぱんてき）に言（い）い伝（つた）えられてきたものなんだよ。」

「今日（きょう）は、山菜（さんさい）、雑草（ざっそう）、野草（やそう）、薬草（やくそう）、毒草（どくそう）、本草学（ほんぞうがく）、生（しょう）薬学（やくがく）、漢方（かんぽう）、民間（みんかん）薬（やく）とか、いろいろと頭（あたま）の中（なか）が整理（せいり）できてよかったです。」

「あのう、おまけに身近（みぢか）な植物（しょくぶつ）として、野菜（やさい）というものがありますが、それはどう理解（りかい）すればいいのですか。」

「そうだね。人間（にんげん）の歴史（れきし）の中（なか）で、あちこちに生（は）えている植物（しょくぶつ）をそのまま食（た）べているのもあるけど、育（そだ）てながら改良（かいりょう）して、いろいろな野菜（やさい）ができたんだね。」

「ダイコンも、ニンジンも、ピーマンも、キャベツも、ナスも、みんなみんな植物（しょくぶつ）ですもんね。」

「そうだね。たくさんの人（ひと）がどうすればおいしくなるか、ずうっと昔（むかし）から研究（けんきゅう）されてきたんだ。野菜（やさい）は体（からだ）によいので、たくさん食（た）べようね。それから、カラスノエンドウもギシギシもおいしいから食べてごらん。」

植物は長いお友達

　人間と植物とは、古の昔から深い関係性があった。特に衣食住にわたって、人間はその特性を生かしながらより良い生活ができるように創意工夫してきた歴史がある。衣服を作るのに、あの木の樹皮を使おうとか、あの草の皮でやってみようとか、いろいろと試してきたことだろう。住では、家を建てる時に、柱にはどのような木が適しているか。梁（はり）にするには、柱とは違った樹種を選定するなど、これも試行錯誤の連続であったと思う。また、食は特に生きるか死ぬかの最重要課題であり、それぞれの地域に繁茂する植物を巧みに利用し、取捨選択しながら、気の遠くなるような大昔からいろいろと試し、煮炊きしながらより良いものを食として価値づけてきたのであろう。そんな、様々な人間の活動が、文明を発達させてきたのである。
　文明の発達には植物は無関係ではなく、その発祥地には必ず重要な栽培植物がある。例えば、エジプト文明・メソポタミア文明は、ムギ類の起源地であり、インダス文明の発祥地にはイネがあり、中国の黄河文明には大豆があり、中米のマヤ文明やアステカ文明にはトウモロコシが、南米のインカ文明にはジャガイモがあった。つまり、栽培植物があったからこそ文明が発達したのであり、人間と植物とは、とても深い関係があり、長いお友達であったということである。