2.植物の世界
(1)花のつくりとはたらき
(2)葉・茎・根のつくりとはたらき
(645)サクラの花はなぜ早く散るのか
「花ちゃん! 春だね。うれしいね。」
「そうね。楽しいね。色とりどりのお花でいっぱいになりますね。いろいろな木々も花を咲かせ、ワクワクウキウキ気分になりますね。モンタ博士!」
「そうだね。何と言ってもサクラの花が最高だね。3月に南の地方から咲き始め、4月終わりには北海道でも見られるし、日本列島を走り抜ける『春のランナー』だね。」
「『春のランナー』いい言葉ですね。サクラといえば、開花予想とか、開花宣言とか言いますが、今いちよく分からないのですが、くわしく教えてください。」
「そうだね。いい質問だね。開花予想というのはね、ソメイヨシノのつぼみ10個の重さを量って、その重さが1グラムになると、その10日後には花が開くとみていいそうだよ。」
「開花宣言というのは、何ですか。」
「各地の気象台では、標準になる木を決めて毎日観測し、その木に数輪の花が咲いた日を開花日として、開花宣言するんだよ。」
「それから満開になるのはどのくらいですか。」
「そうだな。ふつうは、開花宣言から約5日前後と言われるけど、その年の天候にも左右されるね。」
「なるほど。そういうことですね。さらに質問ですが、花はどのくらいで散るのですか。」
「そうだね。1つの花は咲いてから約7日で散り始めるんだ。つまり、全体としては約2週間ほどになるんだ。ところで、花を1つ1つ見れば、その花がいつ散るかが分かるのを知っているかな。」
「えっ! 花が散る日も予想できるのですか。」
「下の写真を見てごらん。特に花の中心に注目して見てごらん。」
「よく見ると、花のまん中の色がちがいますね。これはどういうことですか。」
「(1)は中心がとても赤いね、(2)は少し赤い、そして、(3)はほとんど赤くないだろう。」
「本当にそうですね。こんなにくわしく見たことはありませんでした。この赤さが何か意味があるのですか。」
「この赤さで、花びらがいつ散るかが分かるんだ。一番赤い(1)は明日には必ず散るだろう。また、(2)は、あさってか、その次くらいかな。」
「なるほど、そういうことですか。ところで、また質問なんですが、たいていの花は、花びらが色あせたり黄ばんだり見苦しくなってから散りますが、どうして、サクラは美しい花びらのまま散るのですか。」
「これまた、いい質問だね。オー君の言うように落ちてくる花びらは、色もそんなにあせることなくて美しいね。こんなにきれいなら、もう少し咲いていてほしいね。でもね、きれいなまま、いさぎよく散っていくのもサクラの特長でもあるんだよ。」
「そのとおりですね。サクラってパッと咲いて、パッと散るっていいますね。でも、それって何か理由でもあるのですか。」
「そうなんだよ。それでね、モンタ博士もあれこれと本を読んで調べたらね。サクラは、『離層の発達がいい』ということなんだよ。」
「『離層の発達』? 何だかむずかしくなってきちゃいましたね。」
「まず、離層とは、葉が『はなれるしくみ』ということなんだ。花びらと葉は、本を正せば同じで、花びらや葉が散り落ちるしくみは同じなんだ。秋になれば冬越しのため葉が散り落ちるし、花びらもその役目が終われば、落ちるんだよ。」
「落ちる仕組み? というのが今いち分かりにくいです。」
「葉や花が落ちるのは、その根元に『離層』という養分や水の流れを止める仕切りができるためなんだ。そして、サクラは、その『離層』というものがよく発達しているからなんだよ。」
「ということは、サクラは、他の木とくらべると、葉の散るのも早いというわけですか。」
「ピンポーン。そのとおりさ。まだ夏のうちからサクラは葉を落としている姿を見てね、モンタ博士もずうっと不思議に思っていたんだよ。でも、この『離層』という説明があって、初めて納得したんだ。」
「そうなんですか。それではオー君! 夏の終わりに、またサクラの木を観察しようよ。」
「うん、そうしましょう。またまた楽しみがふえちゃった。花ちゃん!」
開花予想曲線とサクラ前線
開花予想についてですが、詳細を示すと、つぼみ10個の重さを量り、それを開花予想曲線というものがあり、それに当てはめて開花する日を推測するものです。また、サクラ前線というものがあり、九州から南関東までは、普通は1日に100kmの速さで北上するといわれています。その後、約300kmの帯となって1日に20kmというゆっくりとしたスピードで北上します。正に「春」という背番号を着けたマラソンランナーなのです。