2.植物の世界
(5)裸子植物のなかま
(10)あら、不思議? 植物マジックの世界
(627)マツボックリのマジック
「あれあれ? ボトルの中に何か入っているね。花ちゃん!」
「何だろうな? あっ! 分かった。マツボックリだ。」
「ボトルの中に入ったままだね。」
「さあ! これからクイズだよ。マツボックリを外に出してごらん。」
「そんなのかんたんさ。エイ! エイ! こりゃだめですね。マツボックリのほうが大きくて、ボトルの口から出ません。」
「そうか、残念! では、ここで魔法の水を入れるよ。そして、じっとがまんで5~10分待つんだよ。」
「えっ! 3分はカップラーメンだけど、そんなに待つのですか⋯⋯。長いな⋯⋯。」
⋯⋯そして、5~10分後に見ると⋯⋯。
「あれ? マツボックリが小さくなっているよ。」
「これなら、ボトルから出すことができるわ。」
「でも、ふとっちょだったマツボックリが、やせたというとまちがいだけど、なんか小さくなったというか、しぼんだような⋯⋯。そんな感じですが、どうしてかな。」
「それでは正解を言うとね、魔法の水というのはただの水さ。つまり、水を入れてフタをすると、中の湿度が高くなり『りんぺん』という部分が閉じるということなんだよ。」
「どうして閉じたのかな。こりゃ、とっても不思議だな。」
「閉じるだけじゃないよ。この後、マツボックリを乾燥させると、『りんぺん』は元のように開くんだ。」
「何でそんなことするのかな。ふーむ⋯⋯。なぜだろう。こりゃ、なぞだ。」
「分かった。これは、種子の散布と関係があるんですね。つまり、雨の日には閉じて種を飛ばさないけれど、晴れて乾燥すると、『りんぺん』が開いて中の種子が外に飛び出すということですね。」
「ふーん。なるほど、そういうことか。でも、どうして、その『りんぺん』というものが、開いたり閉じたりするんだろう。」
「どういう仕組みになっているかは、わたしにも分からないわ。」
「そうだね。ここからは小学生にはちょっとむずかしいから、モンタ博士が説明するね。まずね、このマツボックリの『りんぺん』とは、ちょっと固くて黒っぽい『つめ』みたいなものだよ。」
「なるほど、『つめ』のようにも見えます。それがいっぱいありますね。」
「その様子が分かるように、マツボックリをたてに切った写真が下にあるから、見てごらん。」
「右と左のちがいがよく分かりますね。」
「そうだね。マツボックリの『りんぺん』の作りは、内側と外側ではちがう繊維と言ったらむずかしいか。つまり、ちがうものからできているんだよ。」
「ちがうものって、どういうことかしら。」
「つまり、雨がふると『りんぺん』が閉じて種子を守るね、その時は、内側の部分が縮むんだ。そして、晴れると『りんぺん』が開き種子を飛ばすけど、その時は、外側の部分が縮むということだね。」
「なるほど、そういうメカニズムなのですね。」
「メカニズム、なんだ、それ?」
「仕組みとか、しかけとか、装置とか、そんな意味だね。」
「なーるほど。そういうことですか。それにしてもただのマツボックリだけど、その仕組みというかメカニズムには感心しちゃいますね。」
「でもね、まだまだおどろくことがあるんだよ。このマツボックリの開閉の仕組みを参考にして作ったものがあるんだよ。」
「どういうものですか。」
「あのね、みんな暑いと『あせ』をかくでしょ、その時、ふつうの綿のTシャツなんかだとベトベトして気持ち悪いね。そこで、このマツボックリと水との関係から、ある繊維を作ったそうなんだ。」
「へえー。どんなものなんですか。」
「つまりね、あせをかくと繊維の間が開いて風通しがよくなり、すずしさを感じることができ、Tシャツをぬがなくてもいいというものさ。すごいだろう。」
「へえー。すごいですね。」
「さらに、その魔法のような繊維である生地が、自然に体温を調整してくれるというんだ。まったく、人間の英知というか、知恵はたいしたもんだね。感心しちゃうね。」
マツボックリの応用まだまだあるから驚きだ!
マツボックリの鱗片、つまり量(かさ)は湿度に反応して自然に動く。湿度が高いと鱗片(一つ一つのかさ・つめ)はまっすぐそのままで、湿度が低くなると鱗片は湾曲する。そこで、チューリッヒ工科大学のチアラ・バイラチィさんは、繊維が縦に入った異なる種類の板を平行に並べて、湿度の変化で板の角度を調整した。湿気が高い朝と夜は、板は真っすぐで垂直になり、太陽が高くなって空気が乾燥する日中は板が湾曲して影を作るそうである。このシンプルなメカニズムを実用化するまでは数年も要したそうだ。あれこれと試行錯誤の連続であったそうだが、今では同大学のキャンパス屋上に設置されたサンシェードの下ではそよ風が気持ちよく吹いているそうである。そのうち、いつの日かキャンパス屋上に訪れてみたいものである。