2.植物の世界
(3)被子植物(双子葉類)のなかま
(614)カツラの木(綿菓子のような香り)
「あっ! また、鳥が来たね。こんどはスズメのようだよ。」
「そうだね。それにしても、モンタ博士の言ったとおりだね。ナンキンハゼにはいろいろな鳥が来るんだね。あっ! ウンチおしっこをしたよ。」
「ごちゃまぜウンチおしっこだね。やっぱり白いね。それに、ちょっとだけど、黒い点々も見られるよ。」
「ナンキンハゼの番人をやってよかったね。あの白いマークはやっぱり鳥だったね。いろいろよく分かったし、本当に驚きでおもしろいね。」
「いろいろと不思議なことでも、よく考えることが必要だね。そして、当たり前でも疑問を持って実験してみると、とてもよく分かるね。」
「ナンキンハゼと鳥との間には、関係性というか、規則性のようなものがあるのね。それが、科学的に証明できたというわけね。」
「科学的に証明か。なんかぼくたちは、科学者みたいだね。かっこいい感じだね。何だかうれしくなっちゃったな。ところでさ、さっきから、花ちゃん、お口の中で何かキャンディーとかをなめていない。」
「いえ、別に何もなめていないよ。どうして?」
「そうだよね。まだおやつの時間ではないしね、いや、まあいいや。」
「えっ! 変だよ。オー君。どうしたの。花ちゃんにも教えてよ。」
「あのさ、さっきからちょっと気になっているんだけど、なんか甘い、いいにおいがしない。綿菓子のような香りだよ。」
「そのこと。私も本当を言うと、さっきからいい香りがするなあ。ひょっとして、オー君のポケットの中に、キャラメルでも入っているのかな、と思っていたところなの。」
「えっ! 花ちゃんも感じていたんだ。ぼくが感じていたのは、偶然じゃないということなんだね。」
「そういうことね。」
「あっ! そうか、偶然と偶然、それがいっぱいになると、それは必然ということになるわけだ。そして、その必然という関係性には、なにか規則性があるということだね。」
「つまり、不思議なこの香りは、科学的にどうしてかが分かるということだね。」
「ふーむ。規則性とか科学的とか、二人ともずいぶんとむずかしそうなお話で夢中のようだけど、どうしたの。」
「あっ! モンタ博士。いまナンキンハゼの観察実験をしていたんですが、ところが⋯⋯。」
「どこかからか、とってもいい香りがしてきたんです。」
「モンタ博士も感じませんか。この何ともいえない甘い、いい香り。」
「そうだね。いい香りだね。モンタ博士も感じるよ。」
「そうでしょ。それはなぜか。そういう時はまわりをよく見ればいいんでしょ。」
「まわりには、あまりおうちはないわね。」
「どこかでおやつに綿菓子を作っているかもしれないけど、そういう家はなさそうだしな。どうすればいいんだろう。」
「そういう時には、下を見てごらん。何かないかな。手がかりを探そうよl」
「きれいなナンキンハゼの落ち葉があります。それに少し丸い葉もあります。」
「その葉っぱを手に取りにおいをかいでごらん。」
「うわあー。いい香りです。これで謎は解けました。においのもとはこの葉っぱなんですね。この葉っぱがついていた木は⋯⋯、この木だ。この木から甘いいい香りがしてきます。」
「そうだろう。そうだろう。このカツラという木はね、ふつうは川の近くなどに多い木だけど、樹形や葉っぱの形がいいので、公園などにも植えられているんだよ。」
「それで、それで⋯⋯。」
「このカツラという木はね、とても甘いいい香りがするんだよ。葉を乾燥させ、粉末にしたものを、香りのもとにも使っているんだよ。」
「その香りのもとは、はっきりと分かっているのですか。」
「香りのもとはね、『マルトール』という物質なんだよ。」
「今までは、この木の近くを通ってもあまり感じなかったのはなぜですか。」
「このカツラの葉は、葉が色づくにつれて、そのマルトールという物質が多くなるんだよ。つまり、秋になるとよく香るということだよ。」
「なるほど、そういうことですか。よく分かりました。つまり、ものごとのいろいろな現象には、必ず何か原因があり、そして、それが結果として表れるということなんですね。」
「オー君、いろいろなことが分かってよかったね。それにしても、オー君のお話のしかたが、まるで科学者のようで、かっこいいよ。オー君!」
「まあ、そんなにほめられちゃうと、はずかしいなあー。」
「これからも、いろいろなことに興味・関心を持ち、好奇心いっぱいにいろいろなものを見ていこうね。」
綿菓子そっくりな香りを放つ、カツラという木について
カツラの葉の香りは、葉が老化段階や乾燥が起因しているようである。なお、カツラの材や茎には上記のマルトールの含有量は少ない傾向があるようだ。マルトールが代謝過程で生合成されるかは現在では明確な結論は出ていない。細胞が弱ったり死んだりして細胞内の成分局在の区切りが壊れた後に起こる成分間の化学反応により生成される可能性が指摘されている。また、マルトールが植物にとってどのような働きを有しているかについては、いまだ研究途上のようである。ただし、マルトールの薬効や抗酸化作用については、様々な研究者が研究を進めている。
また、カツラは、カツラ科カツラ属で古い時代から生き残ってきた植物であり、日本固有で花には花弁もガクもない。山地の谷沿いの渓畔林を形成する重要な樹種であり、個体数はそれほど多くはない。日本の中北部、東北地方に多く、葉から抹香を作っており、青森ではマッコノキ、秋田ではマッコ、宮城ではコーノキ、岩手ではオコーノキと呼ばれるそうである。なお、同属のヒロハカツラは、中部地方以北の亜高山帯に分布し、葉は丸く種子の翼が両側に発達する。カツラに比べ樹皮に割れ目は生じない特徴があり、また樹高もそれほど高くはならない。