1.身近な自然の観察
(4)生物と日本人のかかわり
(605)コウヤボウキで箒作りにチャレンジ!
「できた! できたぞ! 完成だ! 完成だ! 完成だーーーーーーー!!!」
「どうしたんですか。モンタ博士。」
「お願いですから、あまり興奮しないでください。」
「ついに完成! モンタ博士特製の『本物のコウヤボウキ』です。」
「コウヤボウキ? 何ですか?」
「コウヤボウキ⋯⋯あっ! そんな名前の植物がありましたね。」
「ホウキというから、庭やおうちで使うホウキですか。」
「よく聞いてくれたね。コウヤボウキというのはね、ホウキだよ。」
「ホウキって、あまり使いませんね。電気掃除機なら、たまに使うこともありますが⋯⋯。」
「ホウキというのは、学校のお掃除の時に使うけど、ふだんはあまり使いませんね。お庭をそうじするのは、普通は竹ぼうきですね。」
「コウヤボウキって、何なんですか。」
「少し長いお話になるけど、聞いてほしいね。あのね、和歌山県に空海というお坊さんが作った、高野山というお寺があってね。」
「名前だけは聞いたことがあるような、無いような気がします。」
「この時に、人間の心をまどわすようなものを、すべてお寺に植えることを禁止したんだよ。竹はタケノコができるし、竹を加工してカゴやザルを作ることができ、これらのもので利益をえることができることから禁じられ、この高野山というお寺には竹がありませんでした。」
「それでどうしたんですか。」
「それでね、竹ぼうきが作れないから、このコウヤボウキという植物の枝をたばねてホウキを作ったことから、コウヤボウキとして、広まったそうだよ。」
「つまり、利用価値の高い竹や実などが修行のじゃまになると考えられ、栽培が禁止されていたんですね。そこで、竹ボウキの代わりになりそうな植物、コウヤボウキの枝を集めて作ったわけですね。」
「なるほど。そういうわけですか。それで、モンタ博士の作ったコウヤボウキのホウキを見せてください。」
「待ってました。モンタ博士特製の本物のコウヤボウキを見せてあげよう。」
「すごいですね、モンタ博士。すぐに使えそうですね。」
「使ってみたけど、けっこういろいろとはけるよ。机の上やかんたんな掃除の時などに使っているよ。」
「よく見ると、定規もあるので大きさが分かりますね。」
「だいたい30センチくらいあるかな。作るのが楽しいので2つも作ったよ。」
「でも、何か見本のようなものがあったんですか。」
「そうなんだ。その昔、カイコのお部屋をきれいに掃除するのに使ったという物があってね、正倉院という日本の宝物を入れてある建物の中に本物があるそうだよ。」
「へえー、そんな昔からあったんですね。」
「わたしは、その昔のコウヤボウキで作ったという本物が見てみたいです。」
「正倉院にはかんたんには入れないけど、レプリカ、つまり複製品が奈良国立博物館にあるそうだよ。」
「ところで、コウヤボウキという植物って、どんなものなんですか。見てみたいな。」
「そう言うかと思ってね、写真を撮っておいたから見てごらん。」
「きれいなお花ですね。」
「今度、ぼくにもそのコウヤボウキという植物を教えてね。」
「ところで、このコウヤボウキ、掃除の大好きなぼくの友達にあげたんだ。そしたらね、その使い心地や感想が届いたんだよ。」
「へえー、そうなんですか。私、見たいです。」
「そのお友達というのは、誰なんですか。」
「その名は、『御掃除好子』さんという人だよ。」
御掃除好子さんから
感想文:
モンタ博士、このたびは素敵な贈り物をどうもありがとうございます。私は昭和の生まれですから、もちろん、お部屋のお掃除にはいまだに箒と塵取りを使っています。コウヤボウキは観察会の時に山へ入るとよく見かけますよね。細長い枝がいっぱいに広がって、そこにちょこんちょこんとついている小さなお花がかわいらしいと思っていましたが、こんな立派なほうきになるなんて。枝が細いのにしなるので、畳の上を掃くのにしっくりぴったりです。お掃除が好きになりそうです。えっ、お掃除好きだと思っていらしたの、実はあまり好きではなかったんですよ。でも、この軽くて掃きやすいコウヤボウキのおかげで一日一回はお掃除をするようになりました。持つところは枝のでこぼこで怪我をしないように麻紐で丁寧に包んであるのも素敵。このコウヤボウキの箒、実は冬のコートについたほこりをさっさと払い落とすのにも重宝しそうです、もし、よろしかったら作り方を教えてくださいな。
コウヤボウキ集めは、昔の子供のアルバイトだった!
コウヤボウキ集めは、昔の子供のアルバイトだった!
ある本によると、その昔には、まだコウヤボウキが使用されていたことが分かりました。山のやや乾いた尾根沿いに多く繁茂する低木です。子供たちは『ホウキ草』といって、その枝を集めては、冬場のアルバイトとしていたそうです。一握りが5円程度で(今のお金にすれば50円ほど)、毎年、買いに来る箒屋さんがいて、その人に売っていたそうです。なお、モンタ博士がホウキを2本作製するために、5束くらい採集したので、250円くらいの価値になるかもしれません。
なお、正倉院御物の「子日目利箒」とは、コウヤボウキの枝を束ねて、真珠やガラス玉などをつけた玉箒のことです。正月初子の日の儀式で使われ、蚕室を玉箒で掃き、清めて蚕神を祀っていました。
※大伴家持(巻20-4493) 『初春の 初子の今日の 玉ばはき 手に取るからに ゆらく玉の緒』