1.身近な自然の観察
(4)生物と日本人のかかわり
2.植物の世界
(3)被子植物(双子葉類)のなかま
(577)野菊1(秋をいろどるノギク)
ユウガギク カントウヨメナ
ノコンギク シロヨメナ
シラヤマギク カワラノギク
リュウノウギク
「うわあー,きれいなノギクがいろいろありますね。」
「いいだろう。八王子市内やあちこちの野山で撮影したものだよ。」
「全部モンタ博士がとったノギクですか。すごーい,とってもすてきです。」
「まあ,それほどでもないけどね。ほめられるとうれしいね。」
「花ちゃん・モンタ博士! ノギク,ノギクって,言っているけど,何なの,その『ノギク』って。」
「オー君,ノギクというのはね,ふつうの野山に自然に咲いているキクのことなの。『キク』という言葉は,聞いたことがあるでしょ。」
「もちろんだよ。ぼくのおうちにも咲いていたかな。」
「そうでしょ。それはね,栽培品として昔から育てられていたもので,『イエギク』というものなのよ。」
「そうか,少し分かってきたかな。」
「それからね,栽培品種の花を集めて,キクでお人形も作るのよ。」
「え! お人形?」
「そうよ。いろいろな色のキクの花でかざるの。とてもきれいよ。この前,おうちの人と神代植物公園でキク人形展をやっていたので,見てきたわ。」
「へえー,そんなのやっていたんだ。」
「それから,その神代植物公園では,大切に育ててきたキクの展示会もあったわ。20センチくらいの大きなキクや,糸のように細いキクの花とかもあって,それはそれは,とってもきれいだったわ。」
「へえー,そうなんだ。今度見てみたいな。」
「それからね,オー君。キクはお墓参りに行くときによく持っていくのよ。仏花とか言ってね,お仏壇に供えたりするときにも,キクはよく使うわね。」
「なるほどね,キクと日本人とは深い縁があるということかな。」
「そうだね。特に菊は,日本の皇室の印でもあるし,象徴でもあるね。パスポートの表紙も,キクの絵があったね。」
「すごいね。キクって! そんなに有名なんだ。」
「有名というか,何というかな。昔から日本人の生活にはなくてはならない花だったんだね。」
「ところでさ,オー君! 3月3日って何の日か覚えている。」
「3月3日は,桃の節句,ひな祭りでしょ。」
「では,5月5日は?」
「5月5日は,端午の節句でしょ。こどもの日でもあるね。」
「7月7日は?」
「七夕でしょ。」
「それでは,9月9日は?」
「9月9日? 何の日だろう。何かある日なの。」
「9月9日は重陽の節句というのよ。そうですね。モンタ博士!」
「重陽の節句について知っているなんて,花ちゃんはすごいね。確かに,今では3月と5月しかお祝いはしないけど,昔は9月9日も特別な日だったのさ。くわしくは自分で調べるといいよ。ともかく,日本人とキクとは,昔から深いつながりがあったということなんだ。キクについてのお勉強はこのくらいにして,先生の奥さんのキクちゃんという人が描いてくれた,いろいろなノギクのイラストをみんなで見ることにしよう! どれもこれもみんなとても上手で,ものすごくすてきだよ。」
ユウガギク カントウヨメナ
ノコンギク シロヨメナ
シラヤマギク
カワラノギク リュウノウギク
植物名 |
特徴 |
ユウガギク |
花はやや大きめ,明るく湿った所に咲く。枝はよく広がり,花は枝先に集まる。夏ごろから咲き始め,もっともよく見かけるノギクである。
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カントウヨメナ |
花の色が淡い青むらさきが多く,明るく湿った所に咲く。花は枝先に1~3個つける。田んぼなどで見かけるのはこの種である。関西地方はヨメナが咲く。
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ノコンギク |
やや遅めに咲くノギク。湿った所や乾いた尾根道など,いろいろな場所で咲く。花は枝先に集まるように咲く。葉が厚くざらざらしている特徴がある。また,冠毛がとてもよく見える。 |
シロヨメナ |
林の中のやや日かげの場所に咲く。花の色は白。舌状花の先端はやや丸みがかった感じである。葉は長く大きく,先が鋭くとがり,3つの脈がよく目立つ。
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シラヤマギク |
林の中やまわりで咲く。花びらが5~7枚と少ないのが特徴的である。花は枝先に集まる。下の葉は上の葉とちがいハート形なのが特徴である。
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※ここまでの5種がとてもよく似ていて,分類同定に苦労をする。ノギクが分かればかなり専門家。
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カワラノギク |
昔は日野市あたりでも見かけたが,年々その数は少なくなっている貴重な種。多摩川の羽村市の河川に保護している場所がある。葉が他のノギクと違い,線形であるのが特徴的である。
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リュウノウギク |
乾いた尾根沿いなどでよく見かける。最もキクらしいキクであり,竜脳というお香のよい香りがする。花の色は純白。葉は3つに浅く切れ込む。晩秋に咲き,ノギクの最後を飾る種である。
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伊藤佐千夫の「野菊の墓」に登場するノギクについて
純真・可憐な恋物語として,多くの読者の共感をさそった名作「野菊の墓」。ここに登場するノギクは何かを探ってみることにした。文中に「道の真中は乾いてる・・・ タウコギが末枯れて,水蕎麦蓼など一番多く繁っている。都草も黄色く花が見える。野菊がよろよろと咲いている」(原文のまま抜粋)とあることから,周辺の植物環境と野菊の生育状況が読み取れる。つまり,結論としては,この物語に出てくる野菊とは,カントウヨメナであると考えられるが,いかがなものであろう。賛否両論お受けしたいと思う。