5.各学年の授業実践・地域活動
(6)6年生・移動教室
(512)6年生の移動教室 その1
「やあ! 6年生の皆さん。いよいよ日光移動教室だ。元気に行っておいで。」
「モンタ博士はいっしょに行かないのですか。」
「ふーむ。みんなといっしょに行ったら楽しいだろうな。どうしようかな・・・。あ! そうだ。みんなのために,『ズミの花満開の戦場ヶ原を10倍楽しむウオッチングカード』を作ったので,それを使ってたくさん楽しんでおいで。」
「そりゃ楽しみですね。それで,どんなことをするのかな。」
「ほんのちょっと教えちゃおう。でもね,
その前に,日光と国立では,見られる植物もいろいろとちがうのさ。」
「あのう,モンタ博士,どうして日光と国立市では植物がちがうの。」
「なるほど,いい質問だね。どうして植物がちがうか。考えてみよう。そのためには,日光と国立市のちがいはどんなことがあるかを考えてみるといいね。日光は栃木県だね。東京と比べると・・・。」
「あ! 分かった。日光は地図の上の方だ。ということは,北にあるということだ。北に行ったら,寒くなるね。」
「そうだね。そのとおり。北海道は寒いし,南の沖縄は暖かいね。よく気がついたね。でもね,もう一つ気がついてほしいことがあるんだけど,分かるかな。」
「うーん。分かんない。ギブアップです。」
「もう一つというのはね,それは,地面の高さ,標高ということだよ。国立市は,海抜74mなのは,知っているかな。」
「そうなんだ。100mもないんですか。」
「ところがだよ。日光,つまりみんながハイキングで歩く戦場ヶ原は,な,な,なんと1400mぐらいあるんだ。」
「そうか,分かったわ。高い所に行くと,寒くなるんでしょ。富士山のてっぺんは,夏でも寒いわ。」
「そうなんだ。日光,特にみんなが泊まる湯元や戦場ヶ原という所は,北にあるし,それに標高も高いということなんだよ。だから,つまり・・・。」
「つまり,どうなの。」
「つまり,植物の生育を決めるのは,雨の量と温度なんだけど,日本は雨の多い国だから,雨量はあんまり考えなくていいんだ。温度によって,生えている植物もちがうということなんだよ。」
「ということは,私たちがいつも見ている木や草ではないものがたくさんあるということですね。何だか楽しみになってきたわ。」
「ところで,ぼくたちは戦場ヶ原でどんなことをするのかな。」
「あのね,その前に,見えていても,見えないということがかなりあるんじゃないだろうかね。それから,あっても感じないってこともあるよね。戦場ヶ原には国立市にはないすばらしい自然がいっぱいなんだ。せっかく行くのだから,いっぱい楽しんでほしいね。」
「そうですね。そのとおりですね。花の色やかおり,草のにおい,鳥の鳴き声,風の音,山の風景,みんなみんなとってもステキなものですね。」
「みんなにはいろいろなことを体験させてあげたいからね。」
「それで,どんなことをするのか,ちょっとでいいから教えてください。」
「目を使っていろいろとウオッチングするけど,五感を使って観察しようよ。目の他に耳を使ってもらおうかと
考えてるんだ。」
「耳を使う? どういうことですか。」
「森に入ったら,目を閉じるんだ。目を閉じることによって,耳の感覚がするどくなるんだよ。神経を耳に集中させて,耳をすませてごらん。森のいろいろな音を聞いてごらん。川のせせらぎや小鳥のさえずり,まだまだいろいろあると思うけど,いろいろ発見してごらん。」
「どんな鳥の鳴き声が聞こえるか楽しみになってきたわ。」
「目や耳を使ったら,手も使わなくちゃね。森にはたくさんの木があるよね。木には,コケもたくさんついているし,地衣類もあるよ。それらをただ見るだけではダメだね。自分の手でさわってごらん。どんな感じがするだろうね。」
「よーし,おいらは,コケをさわりまくるぞ。まかせとけ。」
「でもね,何でもかんでもさわっていいわけではない。ツタウルシという植物は,さわるとかぶれるかもしれないから注意してね。」
「ツタウルシ? 聞いたことないわ。私,知らないわ。」
「大丈夫だよ。たぶん校長先生が教えてくれるよ。それからね,手を使うと同時に,足も使おうね。森に入って,地面に立ってごらん。コンクリートとはちがう感じを味わってほしいね。」
「それから,それから・・・。」
「急いで歩くことはないんだ。森を歩くことを楽しんでごらん。それから,まだまだあるよ。森の中で,大きく深呼吸してみるのもいいね。おいしい空気をおなかいっぱい吸いこんでごらん。」
「それから,それから・・・。」
「あまりお話しすると,楽しみがなくなるので,このへんでおしまい。」
「なんだか,とっても楽しみになってきたぞ。早く行きたいよ―。」
「あ! それからおまけのお話だけど,『日光自然博物館』にアクセスしてごらん。いろいろな情報がいっぱいだよ。どんな動物がどこに出たとか,いま見られる草花は何かとか,いろいろと調べるとおもしろいと思うよ。これから戦場ヶ原では,ズミというリンゴによく似た花が満開なんだそうだ。みんなといっしょに見たいな-。一人もお休みしないでみんなで行きたいね。そのためにも,健康管理には十分に注意しよう。6年生のみなさん,気をつけて行ってらっしゃい。」
「遠足や移動教室での自然観察の意味を小論文にまとめたので紹介します。」
子供の感性を培うための理科学習
~自然環境を生かした体験学習を通して~
1 はじめに
近年,
子供の
理科離れや
自然体験不足が
叫ばれて
久しい。
生物分野の
学習においては,
地域に
見られる
自然も
減少してきており,
実際に
体験することができず,どうしても
図鑑や
写真映像などに
頼ってしまうという
傾向が見られる。そして,
本来わくわくどきどきするような
楽しい
理科学習の
授業が
思うように
実践できない
状況がある。
理科学習は,
自然に
親しみ
観察・
実験を
行い,自然の
事物とのふれあいを
通し,自然を
愛する
心情を
育てるという
目標がある。また,自然に
目を
向け,自然の事物・
現象の
規則性について
気付き,
科学的な
見方や
考え
方を
養うことも
重要な目標である。そして,このような理科学習を通して,
子供たちは
感性を育てる
機会に
恵まれるのである。そこで
大切なことは,
実物にふれることである。
特に
生物分野では,この
直接体験を
大切に
扱っていきたい。
木の
香り,
草のにおい,
虫にふれた
時の
感触など,
本物だからこその
愕きや
発見があり,
感動が
生まれ感性が
高められるのである。
学習過程において,「
考えること」も
大切な
学習活動であるが,
本来,考える
作業は,
頭の
中で
語彙の
意味を
理解し,それを
活用し
知識を
広め
理解を
深めるものである。しかし,
小学校時代の
子供には,むしろ「
感じる
心」を
耕し,
感性を
高める
機会をより
多くもつことの
方が
重要であると考える。
特に
生物分野での
学習では,
野外での
動植物とふれあう
場面も
多く,
頭で
考える
作業だけでなく,
実際に
見る・さわる・においをかぐ・
耳をすますなどの
感覚器官を
活用した
観察法や
実験法を
大いに
取り
入れていくことが
大切であるといえる。そして,
感性を
高める
教育といっても,
感覚器官を
訓練することから
始めることであり,
子供が
自分自身の
五感を大いに活用できるような
学習計画をプランニングしていくことが
必要である。
以下,
具体的な
学習活動を
展開する
上での
課題や
対応策,また,
実践事例などの
詳細を
記すことにする。
2 野外での理科学習活動での課題と実践事例
(1)
安全に
対する
配慮
野外では
予期せぬ
事故が
発生する
可能性があるので,
十分な
配慮や
対策・
準備をしなければならない。まず,
担任一人では
目が
行き
届かない
場合があるので,
学年やブロックなど
複数で
指導する
体制をとらなければならない。また,
指導者の
確保のために,
保護者や
地域の
方,ボランティアの
協力を
得ることも
大切なことである。
野外での
活動を
考える
場合,
事前の
危険箇所の
確認はもちろん,
子供の
体力やコースなどに
配慮し
余裕のある
計画を
立てることを
心がけるべきである。
(2)
学習意欲の
喚起とその
継続
野外での
活動では,
目の
前に
様々な
事象があり,
子供の
学習に
対しての
興味・
関心や
集中力が
散漫となり,
学習意欲が
低下し,
十分な
成果が
得られない
場合が
多い。そこで
大切なことは,あまり
欲張らずに,
観察ポイントやエリアを
限定することである。
例えば
遠足などで,
全行程のほんの
一部でよい,ねらいをもった
活動をさせることである。また,
理科学習の
内容のみならず,
五感を
活用した
自然体験の
楽しさを
加味した
内容にすることも
考えていきたい。
見る・さわる・においをかぐ・
耳をすますなどの
直接体験の
活動を
工夫して
取り
入れることにより,子供たちは
驚きや
感動をもち,学習に
前向きになり,
意欲的な
展開となるのである。
(3)
遠足や
移動教室の
活用
学校の
近くに
豊かな
自然がなく,
理科学習に
役立つような
素材が
見つけにくく,学習の
場の
確保ができない
場合などは,
遠足や
移動教室などの
機会を
大いに
利用していくべきである。移動教室でのハイキングを
実施する学校は
多いが,その
場の
理科的素材を
十分に
活用していない
現状がある。
日光の
戦場ヶ原などでハイキングする学校があるが,
子供たちは,ただ
歩かされていたり,
先を
急いで
競争するように歩いたりする子供たちをよく
見かける。これでは,
貴重な
自然を
前にしても
感動や
喜びなどは
味わうことができない。そこで,その
場の
自然を
意図的計画的に
教材化し,学習カードなどを
工夫し,
体験的な
活動を
存分に
行わせることが
必要である。
(4)
学習カードの
工夫
日光移動教室での
本校の
取組について,その
詳細を
記すことにする。まず,
戦場ヶ原の
湯ノ
湖より
小田代ヶ原・
赤沼までをハイキングするが,
学習カードを
用いての
活動では,湯ノ湖より
泉門池までとした。これを「グリーンクイズゾーン」とした。その
他,
雄大な
男体山や
広大な
戦場ヶ原周辺を「てくてくぶらぶらゾーン」「ゆったりながめゾーン」とした。ここで
以下,グリーンクイズゾーンでの
活動を
紹介する。
①葉っぱシルエットクイズ・・・事前に葉の形をコピーしたものを用意し,それをもとに絵合わせをしながら植物の多様性に気づきながら植物名を当てていく。
②巨木目測クイズ・・・大きなミズナラの樹高や胸高円周を当てる活動を通して,貴重な奥日光の自然を感じる。
③自然タッチクイズ・・・森の中でいろいろな樹木の木肌にふれたり,コケや地衣類などの感触を楽しむ。また,森に入って地面に立ちジャンプして遊びながら,コンクリートとは違った感触を楽しむ。
④耳をすましてクイズ・・・森の中で目を閉じて耳の感覚を働かせる活動をしながら,川のせせらぎや小鳥のさえずり,風の音を感じていく。
⑤木の香り・草のにおいクイズ・・・特徴のある植物のにおいをかいだり,においから連想するものを記させたりする。また,深呼吸させ,森の空気を味わう活動なども行う。
⑥お気に入りコーナー・・・気に入った植物や動物などを見つけ,ベスト3などを決めたりする。
その他,ポイントを決めて3分間スケッチや距離当てクイズ,俳句チャレンジタイム,ベスト三景セレクトなど,様々な活動が考えられる。
3 まとめ
生物界の
特徴として,
生き
物には
多様性があり,
自然界ではそれらが
複雑に
絡み
合っている。それを
全て
教師が
知ること,
教えることは
不可能である。
大切なことは,教えることではなく,
子供自身に
気づかせる,
何かを
感じさせることである。レイチェル・カーソンの
言葉にも「
自然の
不思議さや
神秘さに
目を
見張る
子供たちの
感性を
保つためには,それを
一緒になって
再発見し,
感動を
分かち
合う
大人が
少なくとも
一人,子供のとなりにいなくてはならない」とあるように。