1.身近な自然の観察
(5)自然観察・実験のてびき
(361)高尾山はすごい 4
「高尾山がどれだけすばらしい山かというのは,とてもよく分かりました。」
「いろいろな理由があって,高尾山は植物が多いわけだけど,高尾山の植物が多いもう1つのわけがあるんだよ。今日のお話はちょっとむずかしいかな。」
「え! まだあるんですか。」
「それはね,高尾山は,自然林ということなんだ。」
「自然林? 聞いたことがないなあ。どういうところなの。」
「自然の反対語は何だろう。それを考えればいいよ。」
「自然の反対は・・・,人工かな。」
「そうだ。人工だ。つまり自然林でなければ,人工林ということさ。」
「人工林というのは,どういうこと?」
「その前に,自然林とは,人間が手を加えない自然の林ということさ。それに対して人工林というのは,人間が計画的に生活に必要な木を植えた,作られた林ということなんだ。」
「つまりどういうことですか。」
「みんなが住んでいる谷保にはハケがあるだろう。あれは自然林だ。谷保天満宮も自然林だから東京都の宝物(都指定天然記念物)なんだ。しかし,自然林というのはとても少なくて,東京の近くの山はスギやヒノキを植えた人工林ばかりなのさ。」
「つまり,高尾山は自然林であり,植物の種類が多いということですね。」
「そのとおりだね。だから高尾山はすごいのさ。」
「へえー。そうなの。でも,どうして高尾山は自然林になったの。どうしてスギやヒノキを植えなかったのかな。」
「またまたよいところに気がついたね。さすがオー君だ。高尾山は自然林といっても,スギやヒノキの森がまったくないというわけではないんだけど,簡単にいうと,高尾山の森は守られてきたということなんだ。」
「守られてきた? どういうことだろう。」
「これまたむずかしいお話になるけど,戦国時代に北条氏という大名がいて,高尾山はとても大切な場所だったのさ。高尾山には薬王院というお寺があるけど,そこを守ってあげるから,そのかわりに高尾山の木や草も切ってはいけないという約束を作ったんだ。それで,高尾山は自然のままの林が残ったというわけなんだ。」
「戦国時代? 北条氏? よく分からないな。」
「まあそんなにあわてて勉強することはないよ。そのうち勉強してごらん。」
「つまり,高尾山は守られていたから,人工的に木を植えたりしなかったということですね。」
「そうだね。聖域という言葉があるけど,だれも手をつけられなかったということさ。つまり,高尾山は自然がいっぱいで貴重な山というわけなんだ。」
高尾山の歴史的・地質的な意味について
高尾山には,奈良時代に行基が開いた1300年の歴史を有する薬王院というお寺がある。寺が存続するためには,為政者との関係が切っても切り離せないもので,戦国時代には北条氏がこのあたり一帯を治めていた。北条氏照(北条氏政の弟)は八王子城の領主として,高尾山を寄進するから,北条氏のために戦勝祈願を祈らせたのである。北条氏にとって,高尾山は国の境にあり,軍事上大変重要だったのである。北条氏は,領主として,「制令」という命令書を作り,あれだめこれだめというきまりで,薬師山(高尾山のこと)では木や竹はもちろん下草まで切ることは違法行為であり,切った者は首をはねるということを決めたのである。つまり,現在の髙尾山があるのは,自然の力だけでなく,人の力,政治の力も大きく関与していたということである。
また,高尾山には浅間神社というものもあり,富士山信仰の対象として遠く富士山まで行くことができなかった江戸の人々が富士山の代わりに高尾山に登ったという記録も多く残されており,女性の登山者も多くいたそうである。つまり,信仰の山として高尾山は昔から有名であったということである。
さらに,地質について注目すると,高尾山周辺は小仏層群という1億年前に海底に堆積した砂と泥の地層である砂岩と泥岩が交互に重なった互層が特徴である。そして,それが地殻変動により縦になり,その隙間に水が浸み込み水分が豊かな山となり,植物の多様性が見られるというわけである。