3.動物の世界
(5)ハチのなかま
(262)ハチのひみつの世界 12 「アシナガバチ(1)」
「あれあれ,これはアシナガバチだ。」
「わたし,ちょっとこわいわ。」
「だいじょうぶだよ。モンタ博士の話をよーく聞いて,アシナガバチについての正しい知識を持とうね。」
「そうだね。それでは,アシナガバチがどのような生活をするか,春から冬までのようすを見ていくことにしよう。」
「やっぱり冬はアシナガバチはいないのかな。」
そうだね。ミツバチをのぞいてほとんどのハチは冬は活動しないのさ。」
「それじゃ,アシナガバチはどこにもいないということなの。」
「冬の間は,写真のような木の皮のすき間などにかくれているんだ。そして,春になるとめざめるんだ。この時のハチは全部メスバチでお母さんバチだね。」
「オスのハチはいないの。」
「オスはいないんだ。たった1ぴきの母親バチが巣を作り,たくさんの幼虫を育てるのさ。」
「まず初めに何をするの。」
「冬眠中に使いはたしてしまったエネルギーをえるために,花の蜜をなめるのさ。そして,元気いっぱいになったら,まず,巣作りだね。」
「今までいろいろなハチの巣についてお話ししてもらったけど,復習すると,土の中やドロを使うものもいたわ。それから,竹筒に巣を作るハチもいましたね。」
「アシナガバチはそのどれでもないみたいだな。」
「そのとおりさ。アシナガバチの巣の材料は,かれた木や草なんだ。」
「かれた木や草ですか。」
「そうなんだ。雨や風にさらされたざらざらの木さ。それを少しずつするどいあごでかじりとってひとまとめにするんだね。」
「その後,巣にするの。」
「まあまあ,そんなにあわてないでおくれ。アシナガバチの母親はそれをさらにかみ続けるうちに,繊維のかたまりはどろどろになるんだ。このどろどろのかたまりにはね,ハチの唾液もまじっているんだね。それで,より強くじょうぶになるということだね。」
「ねえねえ,オー君。わたしたちが使う紙も原料は植物の繊維でしょ。」
「うん。それがどうかしたの,花ちゃん。」
「つまり,アシナガバチの巣は,紙とほとんど同じような材料でできた,紙の巣というわけですね。」
「さすがは,花ちゃん。よく気がついたね。くわしく言うとね,アシナガバチの巣は,日本の和紙みたいなものといってもいいかもしれないね。ある本には,大昔の人がアシナガバチの巣作りのようすから,紙作りのヒントをえたのではないかといわれているんだ。」
「ふーん,そうなんだ。自然のすがたから,人間はいろいろと学んできたんだね。ところで,その後,巣作りはどうなるの。」
「材料のかたまりをくわえ,巣を作る場所にもどり,はじめに巣の柄の部分を作るのさ。」
「柄の部分は特に念入りに作るんですね。」
「そうだね。その後,大きな巣をささえる柄だから,かたく強くじょうぶなものにするんだ。そして,柄の下に部屋を作るんだ。」
「うすくのばして筒形,つまり,カップ状の形にするんだな。かわくとうすい紙のかべでできた部屋になるというわけですね。」
「でも,ふしぎだわ。アシナガバチは,どんな道具を使うのかしら。」
「そこがまたおどろきなんだ。ハチたちは大あごをコテのようにしたり,触角を定規がわりに使いながら巣作りをするのさ。」
「つまり,母親バチの体全部が,巣作りの道具というわけですね。」
「母親バチは何度も材料運びをするんでしょ。そして,一つ一つ巣を作っていくのね。それも全部,母親バチ1ぴきでやるんでしょ。やっぱりお母さんはえらいなあ。」
「そのとおりだね。飛んでいるとちゅうに,小鳥におそわれたり,クモの巣にかかったりするかもしれないし,危険がいっぱいなんだよ。」
「つまり,母親バチは命がけなんだね。すごいね。」
「そうだね。そして,ようやく1つの巣ができると,そこで,たまごを産むんだ。写真でも分かるかな。矢印のところがたまごだよ。」
「やっとたまごが産まれたんですね。めでたしめでたし。」
「でも,まだまだ母親バチのお仕事はいっぱいあるんだよ。このつづきはまたあしただね。」
アシナガバチの防犯システム
母親バチは,自分の腹部からアリの嫌う物質を出すことができます。この物質を巣のつけ根の部分に塗りつけておけば,母親バチの留守の間もアリは近づくことができません。アシナガバチの巣は,私たちには感じることのできない化学物質で守られているということです。しかし,この防犯システムの化学物質も効き目がいつまでもあるというわけではありません。何かの理由で母親バチの帰りが遅くなったりすれば,巣はたちまちアリたちにおそわれてしまいます。母親バチの巣作りはそのような危険と戦いながら行われているということです。