2.植物の世界
(4) 被子植物(単子葉類)のなかま
(9)わあ、楽しい! 草花あそびの世界
(140)カヤツリグサで遊ぼう
「あれあれ? これは何だ。緑色をしているから植物みたいだけど・・・。」
「そうね,花びらもないし,おしべもめしべもはっきりしていないね。」
「これはね,カヤツリグサというのさ。」
「カヤツリ・・・。」
「グサ・・・。あまり聞かない名前ですね。」
「そうだね。カヤツリの『かや』とは漢字で『蚊帳』と書くんだよ。」
「そもそも,その『蚊帳』とは何なんですか。初めて聞く言葉です。」
「そうだろうね。蚊帳というのは,夏の夜,蚊にさされないように部屋の四つの隅からつるして寝床をおおうものだよ。昔,殺虫剤や網戸などがなかった頃にはあったものだったのさ。」
「まだよくわかりませんが・・・。」
「そうだ! スタジオジブリアの『となりのトトロ』を見たことがあるだろう。その中で,ふと夜中に目を覚ました『サツキ』が庭で飛びはねるトトロを発見する場面に登場するのが『蚊帳』だよ。」
「そういう場面ありましたね。」
「下のイラストのようなものなんだよ。」
「なーるほど。そういうものですか。つまり,おうちの中にテントをはるみたいなものですね。それで,この『蚊帳』というものと,カヤツリグサとどういう関係があるのですか。」
「そうだね。その前に,このカヤツリグサというものを見て何か気がつくことはないかな。手でさわって見てごらん。茎はどうなっているかな。」
「どれどれ・・・。あれ? 茎が三角形をしているよ。」
「そんな植物があるの? ・・・あ! 本当だ。茎が三角形だ。これは大発見だわ。」
「そのとおり。茎が三角形だろう。ふつうの植物を見てごらん。だいたいが丸い茎になっているはずだよ。ただし,シソ科の植物というのは,茎が四角形になっているんだ。カヤツリグサのなかまは茎が全部三角形なんだ。それだから,『蚊帳つり』と関係があるんだけど,それは,また明日のお楽しみ。」
夏の風物詩・・・蚊帳
昔,日本の夏の夜の風景といえば,蚊帳が思い出されますが,蚊帳は夏の定番として多くの人から愛され利用されてきた。今ではどのご家庭にも網戸があり,虫や蚊の侵入はほとんどないが,昔は,虫よけに蚊帳はなくてはならない存在であった。最近では,各種アレルギーにより,蚊取り線香や殺虫剤が使えない方や,冷房に頼らない省エネ,エコロジーな暮らしのために蚊帳が見直されてきているといわれ,使う方も少しずつ増えてきているようである。また,蚊帳は,冷房や扇風機の風をほどよく和らげてくれるので,心地よく眠ることができると使われる方もいるようだ。日本の気候に合わせ,さまざまな工夫をし,先人たちの知恵が作り上げた蚊帳。現代の便利で快適といわれる生活を,今一度よく考え,昔の物も生かして使ってみるのもよいことだろう。ある諺に「雷が鳴ったら蚊帳の中」と有り。
「ねえ,花ちゃん! きのうのお話で,『蚊帳』とは,つまり,お部屋の中に四角形の網のテントをつり下げるようなものなんだよね。」
「そうね。それから,カヤツリグサ科の植物というのは,茎が三角形という特徴があることも勉強できましたね。」
「でも,どうして,あの三角形の茎の植物が,カヤツリグサという名前になったかが,まだよく分からないなあ。」
「そうだろう。それで,今日は,おもしろ植物実験教室第2弾だ。」
「え! また何かおもしろいことがあるの。」
「そうだね。それでは今からやってみるよ。花ちゃん,オー君,両手を出して手伝ってもらおうかな。」
「二人で,三角形の茎の両方を持って,それぞれ『別の面』を引きさいてごらん。魔法のようなことがおこるよ。」
※別の面とは,上の三角形の図にもあるように,左右がちがう断面をひきさくようにすること。
「あれ? 1本の茎だったものが,切れなくて,広がって四角形になったよ。」
「この四角形が『かや』をつったようなので,カヤツリグサというんだよ。」
「なるほど,そういうことですか。よく分かりました。1本の線のような茎が四角い面のようになるなんて,本当におどろきですね。」
「おもしろい草花遊びですね。でも,これは一人ではできないですね。」
「そうだね。あのね,このカヤツリグサは,一人では遊べないので,『仲良し草』ともいうんだよ。昔,ゲームなどがなかった時には,子供どうしで,このカヤツリグサを引っぱりっこして遊んだんだろうね。それにしても,ただの三角形の茎から,四角形の『かやつり』にする遊びを考えた昔の子供たちの創造力は,ほんとうにすばらしいね。」
「花ちゃん。これは,本当におもしろい植物遊びだね。」
「ほんとうね。おどろきだし,楽しいし,何度も何度もやって遊ぼう。」
三角形の強さのひみつ
普通,植物の茎の断面は丸いものが多く,どの方向にも曲がることができ,しなるようにして外部からの力を弱めている。しかし,三角形の茎は,しなることができないが強さはあるようだ。三角形というのは,3つの辺を使ってできる最もシンプルな図形で,四角形や六角形はすべて三角形の組み合わせによってできる図形でもある。同じ面積であれば,外部からの力に対して最も強く頑丈な図形が三角形である。鉄橋や鉄塔も三角形を基本にした構造になっているのもそのためである。ただ,三角形にも欠点はあるようで,丸い茎ならば中心からの距離が同じであり,一定の圧力によって隅々まで水を浸透させることができる。しかし,三角形では,中心からの距離がまちまちで,水が行き届きにくい現象があるかもしれない。そこで,カヤツリグサのなかまは,水辺が好きなのかなと考える次第であるが,当たらずとも遠からずと言えるだろう。