3.動物の世界
(6)チョウ・ガのなかま
(32)カラスアゲハの夏対策(水冷式クーラーの不思議)
「モンタ博士,この前のプールの時にアオスジアゲハもプールに遊びに来ていたわ。何をしに来ていたのかな。」
「まさか,チョウも暑くてプールで泳ぎたかったんじゃないよね。」
「ひょっとしたら,みんなと泳ぎたかったのかもしれないね。ところで,みんなは暑くなるとどうする。」
「やっぱり暑いときはかき氷かな。それからアイスクリームもいいな。うちわもいいけど,こんなときは,クーラーが一番かな。」
「何をいってるの。人間はね,暑いときにはあせを出さなきゃ。それで体温を調節して,暑くならないようにしているのよ。だから,暑いときはあせをかけばいいのよ。でも,暑いわ。クーラーほしいな。」
「モンタ博士,チョウや虫たちは,この暑いのに大変だろうね。」
「昆虫たちは変温動物で,自分では体温の調節ができないという話は,前にもう話したっけ。」
「思い出したわ。チョウたちは,まだ春の光が弱いころは,葉っぱの上で日光浴をして体を温めるということね。それから,太陽の角度に合わせて,光がなるべく直角にあたるように,羽をたおしたり,工夫しているのよね。」
「よく覚えていてくれたね。感心しちゃうね。それじゃ,夏の暑いときは,どうするのかな。みんながチョウになったつもりで考えてごらん。」
「やっぱり日かげでじっとしているのが一番いいと私は思いますが・・・。」
「そのとおりだね。でもね,えさを取るために休んでばかりいられないよ。モンシロチョウやキチョウなどは,白や黄色で光を反しゃするからいいと思うけど,アオスジアゲハやカラスアゲハなどは,体が黒いから暑くて大変だろうね。」
「そのことは3年生の理科の授業で,白い紙と黒い紙で実験して覚えているわ。」
「それじゃ,カラスアゲハなんかはかわいそうだよ。どうしているのかな。」
「それはね,水冷式クーラーで体を冷やしているのさ。」
水冷式クーラーのカラスアゲハ
「水冷式クーラー?」
「なんですか。それは?」
「その前に,車のエンジンを冷やすためにラジエターというのがあるんだけど,知ってるかな。」
「いいえ,ぜんぜん分かりません。」
「熱いエンジンを冷やすために,近くに冷たい水を流すということかな。」
「そのとおりさ。よく知ってるね。感心だね。ところで,それと同じことをチョウたちはやっているということなんだよ。つまり,太陽の熱で温められて,さらに,あちこちと飛びまわって,その運動でも熱が出てしまったチョウは,水を飲んでほてった体を冷やしているのさ。水を飲んでは,どんどんどんどんおしりから水を出しているのさ。」
「アオスジアゲハはプールで水を飲んで体を冷やしていたんですね。それで体温が下がると,また夏の日ざかりに飛び出していくというわけですね。」
「水のある所に行けば,チョウがゲットできるんだな。ようし! レッツゴーだ。」
長い進化の過程で・・・
飲んだ水がすぐにお尻から出るのはふしぎである。昆虫では口から食べた食物が消化管を通る時間,すなわち,不消化物に尿酸などの代謝生成物がまざり,糞として排出されるまでに要する時間は,短くて2時間,長ければ4日かかるといわれている。飲んだ水が消化管を素通りして出ていくように自分で切り替え,それで,体を冷やすとはまことに巧妙なしくみである。
人間は暑くなると,皮膚の汗腺から汗を出し,その気化熱によって体温の調節をおこなっている。汗腺を持たず,汗のかけないアオスジアゲハやカラスアゲハは,長い進化の歴史の過程で,簡にして要を得た水冷式夏ばて消去法を身につけたのである。