NO.144

ハイイロチョッキリムシとコナラ

「ねえ,花ちゃん,オー君。上の写真を見てごらん。」
「あれ! ドングリがくっついているよ。」
「ということは,これは,コナラの葉っぱと枝(えだ)ですね。でも,ちょっと変(へん)だわ。何だかこのドングリは緑色のままですね。」
「そのとおりだよ。ドングリもあるし,コナラであることはまちがいないみたいだね。ところで,ほかに何か気がついたことはないかな。」
「このコナラは枝が折(お)れていますね。」
「この前の雨や風の時に,落ちてしまったんでしょうね。」
「オー君も同じように,雨や風によって落ちたのだと思うかい。」
「え! 雨や風じゃないの。それじゃ,だれが落としたの。ひょっとして,犯人(はんにん)は,モンタ博士ですか。」
「モンタ博士は犯人ではないよ。これはね,虫のしわざなんだよ。」
「え! 虫のしわざ? そんな虫がいるんですか。何という虫ですか。」
「それはね,下の図にあるような虫でね,ハイイロチョッキリというものなんだ。」

ハイイロチョッキリ(オトシブミ科)
「ハイイロチョッキリ……。」
「モンタ博士,犯人は分かったけど,何のためにハイイロチョッキリが枝を落とすのですか。なぞは深まるばかりですね。」
「実はね,この落ちた枝には必(かなら)ずドングリがついているだろう。それがなぞをとくカギというわけだね。」
「あ! そうだ。おいら思い出したぞ。クリシギゾウムシというのもいたな。つまり,ドングリの実にあなを開けて,そこにたまごを産(う)むんだ。そして,幼虫(ようちゅう)がドングリの中身を食べて大きくなるんだよね。」
「でも,ドングリの中身を食べるだけなら,木の上でもいいわけなのに。」
「そうだよ,そうだよ。ドングリの実にあなを開けるのは分かったけど,なぜ,枝を下に落とさなくちゃいけないのかな。」
「ねえ,ちょっと,ちょっと,待って。」
「どうしたの,花ちゃん。」
「今,ドングリの実にあなを開けるといったでしょ。それって,どういうことですか。あなを開けるのに,かたいキリなんかどこにあるの。」
「そうだね。それから,枝を落とすと言ったけど,どうやって落とすんだ。まさか,ハイイロチョッキリがハサミを持っているの。」
「そこがおもしろいところなんだけど,まず,下の写真をよーく見てごらん。何か気がつくことはないかな。発見することはないかな。」
「よーく見ると,ドングリのおわんのところにあながあるぞ。」
「本当だ。あるある。何かきずがついている感じですね。」
「そうだろう,そうだろう。これが,ハイイロチョッキリがたまごを産みつけたあとというわけさ。すごいね。」
「本当にすごいんですね。」
「それでは,次に下の写真もよーく見てごらん。何か気がつかないかな。発見がないかな。」
「何だ,こりゃ? 木の枝みたいだぞ。」
「そうね。枝ですね。これがハイイロチョッキリと何か関係(かんけい)があるんですか。」
「左と右の枝のちがいに気がつかないかな。」
「左はずいぶんときたなく折れている感じだな。」
「でも,右はきれいに折れているというか,切れているようですね。」
「そうだろう,そうだろう。右の5つは,どれもハイイロチョッキリが切り落とした枝なんだ。左の枝は,モンタ博士が手で折ったものなんだ。」
「へえーすごいや。ハイイロチョッキリはナイフも持っていないのに,とてもきれいに切れているぞ。こりゃ,モンタ博士の負けだね。」
「まいった,まいったよ。ハイイロチョッキリ君には負けたね。」

2mmの枝を切る苦労

 たった1cmちょっとの虫が,2〜3mmの枝を切り落とす。それも道具も何もなくて。単純に考えて1.2cmの虫が3oの枝を切るということは,大きさで考えて120cmの子どもが30cmの丸太を切るようなものだ。こりゃすごい。生への執着心だ。生命維持,遺伝子存続のすさまじい戦いをみるような気がする。


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