1.身近な自然の観察
(4)生物と日本人のかかわり
2.植物の世界
(2)葉・茎・根のつくりとはたらき
4.自然界のつりあい・環境保全・地質と地形の世界
(4)自然のめぐみ
(670)森の力
「今日はみんなで山登り! うれしいね、花ちゃん! 最高だね。」
「本当に山は気持ちいいね。お天気もいいし、あちこちにいろいろなお花が咲いているわ。自然バンザイですね。」
「そうだね。山道を登り、深い森に分け入って、森の香りにつつまれる。そして、その香りを胸いっぱいに吸うと、もう最高だね。生き返った気分だね。」
「この香りは、フィトンチッドっていうんだよね。」
「よく覚えていたわね、オー君。感心しちゃうわ。」
「『てくてく
自然散歩』の
No.
163・
164・
551にもくわしくあるね。」
「すごいね。えらいね。よく覚えていたね。」
「そうじゃなくて、正直に言うとね、今日、山登りするというので、ちょっと読んで予習してきたということなんだ。」
「それにしても感心だよ。このよい香りのことを、ある気象学者は、森の樹木が発する『活力素』と言っているよ。」
「『活力素』ですか? 聞いたことがありませんが⋯⋯。たぶん、活力だから元気ということかな。たぶん、そのもとということかな。」
「活力素というのはね、テルペン物質、正しくは芳香性炭化水素というものなんだ。」
「芳香性炭化水素? なんじゃ、そりゃ?」
「むずかしいお話はやめるけど、そのうち大きくなったら勉強してごらん。この樹木が発するテルペン物質がいっぱいになる、つまり、空気中にただようとどうなると思う。」
「えーっと。さっぱり分かりません。」
「あのさ、遠くのお山が青く見えることがあるだろう。それはね、このテルペン物質と関係あるんだよ。」
「どういうことですか。」
「テルペン物質が空気中にただようと、太陽の光をあちこちに散らばらせ、青色が強調されるんだよ。『山青く』とか、『青い山脈』とかの表現もここから生まれているのさ。ブルーマウンテンという言葉もこうして付けられたんだよ。」
「青い山脈、ブルーマウンテンですか。いい言葉ですね。」
「そうだね。けっこう古いけど、同じ題名の小説(石坂洋次郎:著)もあるくらいだよ。ともかく山をてくてく歩くと、それだけで元気が出るし、生き返る感じがするね。」
「それで、モンタ博士はしょっちゅう山登りをされるのですね。」
「そうだよ。山登りの後のビールが最高ということもあるけど、それはちょっとおいといて、山歩きはね、病気の治療にもいいんだよ。」
「えっ! 本当ですか。山をてくてく歩けば、病気がなくなっちゃうの。」
「そうだよ。ドイツという国には、『森林療法』というのが、このごろ注目をあびているそうだよ。」
「森林療法? あまり聞いたことがありませんが⋯⋯。」
「森の中にあるバンガローで数週間も生活し、毎日、森の空気をいっぱい吸って、心を落ちつかせるということなんだけど、かなり効果があると言われているんだよ。」
「『森の仙人』というのを聞いたことがありますが、それと同じようなものですか。」
「ふーむ、そうだね。仙人というのは、不老不死の術をえたり、神と同じような力をもつ人で、中国の道教という教えの理想の姿なんだ。ともかくさ、自然の中で生活することにより、人間本来の力や能力を伸ばせるということさ。」
「ともかく、森はとてもすばらしい力をもっているということですね。」
「そうそう。そのとおり。森は空気をきれいにしてくれるし、静けさをもたらしてくれるね。それから、気象をやわらげてくれる効果もあるし、防災・防火・防風といろいろな力があるんだ。」
「森ってとっても興味深いですね。もっと勉強したいです。」
「そうだね。テルペン系物質の研究や森そのものの効果など、研究分野は広くこれからいろいろと究明される未知の世界でもあるんだ。みんなでいっしょにもっともっと調べていこう。」
※比べてみよう! 雑木林の四季
森の効用
森林の反対語を調べると、平地、原っぱ、荒れ地、砂漠などの言葉が浮かび上がる。人間の歴史の中で、はるか昔、人は少人数で森の中で生活していたが、そのうち、集団も大きくなり、平地での生活が主流となった。そして、たくさんの人が住み着き、いつしか荒れ地ばかりとなり、心まで疲れ荒れ果てるようになった。自然との共生・対話も少なくなり、そこに住む人間も自然離れや便利生活を望んできたようである。しかし、今ここでしっかりと身近な自然と正直に素直に向き合い、その恩恵を受けることが大切であると強く訴えたい次第である。
人々に活力を与え、静かな安らぎを享受できる森こそ、今一度その価値を見直す時に来ているのではないかと思う昨今である。