1.身近な自然の観察
(3)季節と生物
2.植物の世界
(1)花のつくりとはたらき
(3)被子植物(双子葉類)のなかま
(621)ウメとサクラの開花について
「日一日と春の命がみなぎり始めてきましたね。さあ! いよいよ楽しい季節の始まりね。オー君! あちこち、てくてく散歩しよう!」
「そうだね。おっ! 花が咲いているね。これは、ウメだね。このくらいはオー君でも分かるんだぞ。」
「そうね。ウメの花は、春のさきがけとして咲くね。とてもいい香りね。」
「さっきから、春の命がみなぎるとか、春のさきがけとか、いろいろな言葉を知っているんだね。感心しちゃうな。」
「ほめてくれてうれしいわ。あっ! 早咲きのサクラもあっちにあるわ。」
「うす紅色っていうんでしょ。あわいピンク色で、とてもいいね。」
「うす紅色とか、あわいとか、オー君のお花の表現もとてもすてきよ。」
「ぼくもほめられちゃって、うれしいな。あっ! あっちにはカワヅザクラがあるね。このサクラはピンク色でとても早く咲くサクラなんだよね。」
「オー君。よく知っているわね。すごいわ。ところで、オー君。ウメとサクラって、同じように春になったら咲くけど、そのちがいって知ってる?」
「えっ! まあ、そう言われると、困っちゃうな。ウメの方が早く咲くよね。」
「そうね。早く咲くサクラもあるわ。さあ、もう少し近くで花を観察しようか。」
「そうだね。あれっ? ウメとサクラでは、花のつき方がちがうね。それに、花びらをよーく見ると、これまたちがいがあるね。」
「オー君も気がついたのね。どんなちがいがあるか、言ってみてよ。」
「まず、ウメは花が木の枝からすぐに出ている感じだけど、サクラは、花に柄があるようだよ。それから、ウメの花びらは先が丸いけど、サクラの花びらは先が少しわれている感じだよ。」
「ほほー。今日は二人でウメとサクラの観察かね。えらいね。これからはてくてく散歩に良い季節だね。モンタ博士も仲間に入れておくれよ。」
「うわー、うれしいな。今、ウメとサクラを見てちがいを探していたんですが、オー君としっかりと観察して、いろいろなことが分かったんです。」
「それはすごいね。今、花ちゃんは『しっかり』と言ったね。大切なことはそこなんだね。いつもは気づかずに通りすぎてしまうものも、『ていねい』に見ること、『くらべて』見ることが大事なんだね。」
「またまた、ほめられちゃったな。」
「ところでさ、ウメの方が先に咲いて、サクラはその後に咲くというけど、それって、本当かな。そして、それはなぜかな。」
「そうですね。当然すぎると思っていて、あまり疑問に感じなかったな。これじゃ、ダメですね。もっと好奇心を持つようにします。」
「ウメが先でサクラは後⋯⋯、でも、ウメでも遅咲きがあるだろうし、サクラでも早いものがあると言うし、わたし、分からなくなってしまいました。」
「植物には、栽培品種として改良したものとかあって、今、花ちゃんが言ったように、咲くのが遅いウメも、早いサクラもあるけど、それは例外として、一般的にウメが先だね。でも、どうしてかな。」
「何か意味があるんですよね。何か原因があるんでしょうね。」
「そうなんだ。まず、ウメもサクラも、冬に休眠する時には、来年の春に出す葉や花のつぼみのもとが、冬芽の中にもうできているんだよ。」
「休眠するために、冬の寒さは大切なことなんですね。」
「そうだね。休眠中の冬芽は低い温度にさらされると、成長をおさえるホルモンというものが減り始めてね、だんだんと眠りが浅くなり、1~2か月後には、いつでも芽を出せるようになるんだよ。」
「ホルモンとかむずかしいお話になってきたな。」
「まあ、もうちょっとがまんして聞いてよ。つまりね、ウメとサクラの花の咲く時期がちがうのは、ウメの花芽の成長に適した温度が10度前後と低いためなんだ。」
「それに対して、サクラはどうなんですか。」
「サクラはウメよりも温度が高くて16~17度くらいだからなんだよ。つまりね、ウメのつぼみの眠りが、サクラよりも浅いと言えば分かるかな。または、ウメのつぼみが開く温度は、サクラよりも低いということなんだよ。それから、モモ・アンズ・スモモなどは、またちがうみたいだけど、それは、またそのうちお話ししてあげるね。」
♪ウメは咲いたか、サクラはまだかいな♪
ウメやサクラ、さらにモモ・アンズ・スモモなどのバラ科の植物が開花するためには、冬の寒さの中で低温を受けることで、開花を阻害する物質が分解され、眠りから覚めることが必要である。その後、暖かくなると、開花を促す物質が作られ開花するのである。
ところで、それぞれのルーツであるが、これがなかなか難しいようである。まず、ウメは九州地方の北部に自生していたという説もあるが、奈良時代に遣唐使が中国文化と共に日本に持ち帰ったという説もあり、広く普及したのは平安時代である。以前にも説明したが、『万葉集』では花と言えばウメを指し、サクラよりも取り上げた数は多い。それに対し、サクラが世に認められたのは、ずっと後のようである。当時、サクラと言えばヤマザクラが主流であった。なぜなら現在、最も一般化されているサクラは、江戸時代末期に染井村(現在の東京都豊島区駒込)の植木職人によって交配開発されたソメイヨシノであるからだ。
ともかく、春のさきがけとして咲き誇るウメもサクラも、楽しみな花であることに間違いはない。