2.植物の世界
(15)植物と学名
(612)恐竜・植物と学名について
「うわー! 恐竜だ! ヤッター! ぼく、恐竜大好きなんだ。」
「それはよかったね。名前は知っているかな。」
「もちろんです。左から、ティラノサウルス・ステゴサウルス・トリケラトプスです。」
「すごいね。これらはみんなラテン語なんだ。イラストの下にアルファベットで書かれているだろう。つまり、これを学名というんだよ。」
「学名って、何か意味あるんですか。」
「それは、上の恐竜のそれぞれの特徴を表しているんだよ。」
「へえー! そうなんですか。どんな意味なんですか。」
「ティラノサウルスは(こわい+トカゲ)、ステゴサウルスは(屋根+トカゲ)トリケラトプスは(3つ+つの+顔)という意味なんだよ。」
「ぴったし、そのまんまですね。学名って、おもしろそうだな。」
「モンタ博士! 学名って、そもそも何のためにあるんですか?」
「いい質問だね。でも、その前に今回の恐竜と前号でお話しした、コスモスやチューリップって、何か共通点がないかな。」
「共通点、同じところ? 何かな。恐竜は動物で、コスモスなどは植物だけど。」
「あっ! 分かった。どっちも生き物、つまり生物ということですね。」
「ピンポーン。そのとおり、学名というのはね、生き物の研究と大きくかかわっているんだよ。」
「かかわるって、どういうことかな。」
「ここで話題をちょっと変えるけど、下の絵は何だか覚えているかな。」
「あ! これは、ホタルブクロというお花ですね。花の中にホタルを入れて遊ぶんだ。ぼく大好きな花だ。」
「よく覚えていたね。すごいね。」
「わたしもこのホタルブクロは大好きです。花が大きくて、ベルみたいね。かわいいです。」
「ホタルブクロという名前は、和名と言うんだ。学名はカンパニユラ(Campanula)といい、カネ、つまり、ベルを意味しているんだよ。」
「モンタ博士、どうして学名があるのですか?」
「ものの名前というのはね、国や地域によっていろいろな名前で呼ばれているんだよ。ホタルブクロもね、フランス語でカンパヌール、英語でベルフラワー、ドイツ語でグロッケンブルーメ、みんな同じものなんだ。ヨーロッパには種類が多くて、どこに行っても薄紫色の花が風にゆれているんだよ。そこでね、あちこちで名前がいろいろとあると困るので、生物の学問の世界では世界共通の名前を決めておいたほうがいいだろう、ということになってできたのが、学名というものなんだ。」
「そうなんですか。それで、学名を知っていると何かいいことがあるのですか?」
「外国の図鑑はもちろん、世界中どこの博物館でも研究所でも、学名というのは世界用語なので、通用するんだよ。」
「その学名は、だれが提案したのですか?」
「それはね、スウェーデンのリンネという博物・植物学者なんだよ。」
「初めて聞くお名前ですが⋯⋯。」
「まあ、そんなにむずかしく考えなくていいよ。みんなの近くにある植物でもラテン語の学名で使われているものが、まだまだたくさんあるんだよ。」
「どんなものがあるのですか。」
「ヒヤシンス、クロッカス、ピラカンサ、シクラメン、アマナ、ミモザ、シンビジウム、カトレア、オンシジウム、ガーベラ、シトラスとか、植物の名前には、ラテン語からのものが多いんだよ。」
「昆虫なんかにも学名がついているんですか?」
「もちろんだよ。アゲハチョウは、『パピリオ クストウス リンネウス』(Papilio Xuthus Linnaeus)、カブトムシは『アロミリナ ディコトマ リンネウス』(Allomyrina dichotoma Linnaeus)
「『パピリオ クストウス リンネウス』『アロミリナ ディコトマ リンネウス』だな。よーし! 学名を覚えちゃうぞ!」
学名のお話のつづき!
15世紀から18世紀ころにヨーロッパの人たちは、アフリカ・アジア・南北アメリカ大陸への大規模な航海を行い、航路開拓と共に植民地化や膨大な富や文物を獲得していった。そして、世界各地に進出した人々は、新しい土地で次々と見たことのない物を見ては驚きの連続であったことだろう。それは、動植物についても同じであり、彼らは競争のようにして新しい物を収集していった。そして、新種として登録し、博物学が発展するのである。
しかし、次から次へと新しい種が集まり出して困ったことは、何が新しい種であるかというよりも、どこが違っているかが問題視され、少しでも違えば次々と名前を付けていった。非常に長すぎる名前ばかりになるなど、いろいろな混乱があったので、スウェーデンの博物・植物学者のリンネは、「二名法」という方法を考え出した。種というものを「属」と「種」の2つによって表すようにしたのだ。例えば、アゲハは、Papilio Xuthus Linnaeusとなり、Papilio はチョウ、Xuthusはギリシャ神話に出てくるヘレナの息子、つまり、パピリオ属のクストウス種ということになるのである。また、最後の Linnaeusとは、命名者のことであり、この種に名前をつけた人のことである。このようにして、学名というものは、科学の世界で正式に用いられるようになったのである。