1.身近な自然の観察
(5)自然観察・実験のてびき
2.植物の世界
(2)葉・茎・根のつくりとはたらき
(3)被子植物(双子葉類)のなかま
(590)ケヤキの種子散布の不思議
「モンタ博士! 秋も深まりましたね。植物もねむりの世界へ変化しますね。」
「そうだね。咲いた花は実となり,種子を作り,子孫を増やすんだね。」
「植物は,自分で動けないから,いろいろな方法で種子をあっちこっちへと移動するんですね。」
「そうだ! 種子にはどんな移動の方法があったか,復習してみよう。」
「オナモミやメナモミなど,動物などにくっついて移動する植物もあったわ。」
「こういうなかまを,『付着型』というね。それから・・・。」
付着型
「実が赤い色をしていたり,ジューシーな実であったり,鳥たちに食べられて移動する種子もありましたね。」
「そうだね。これらは『被食型』だね。」
被食型
「ドングリやブナ,クリなどのように,自然に落ちるものもありますね。」
「そうだったね。これらは重いものが多かったね。つまり『重力散布型』だ。」
重力散布型
「川や海に浮かんで,ぷかぷかと旅する種,つまり,ハマダイコンやハマナタマメの実などもありました。」
「モモタマナなんかも見せてあげたね。これらは,『水散布型』だね。」
水散布型
「自分で爆発して,種を散布する『自力型』もありました。ホウセンカとか,カタバミなども遠くまで種を飛ばしました。」
自力型
「そうだね。カタバミでは,どのくらい遠くまで飛ぶか実験したことがあったね。『てくてく自然散歩』にも載っているから,また見てごらん。それから,まだあるかな。」
「タンポポの綿毛やカエデのクルクルなどがあります。」
「これを『風散布型』というんだね。これはあちこちでよく見かけるね。タンポポ綿毛飛ばしも楽しんだし,カエデの種子の模型づくりもやったね。」
風散布型
「タンポポ系はふわふわタイプですね。それに対して,カエデ系は,くるくるタイプですね。どちらも風の抵抗をうまく利用したというのが特徴ですね。」
「そのとおりだね。それでは,ふわふわタイプと,くるくるタイプの種子をよく見てごらん。何か気がつくことはないかな。」
「ふわふわタイプには,どれも綿毛がいっぱい付いていますね。」
「くるくるタイプは,どれも翼のような平らなものが付いていますね。」
「そうか,分かった。どちらも種子そのものにあるものが付いていて,それで,風で飛ぶんだ。種に何か付いていないとダメなんだ。」
「そうだ。そのとおり。しかしね,でもね,風散布の種子はどれも種子に何かが付いているけど,生物界は不思議だね。そのどちらでもない,ちょっと変わったやつもいるんだよ。やつなんて言って失礼だね。変わった植物と言えばいいかな。」
「種子にふわふわ綿毛も付いていないし,翼のひらひらも付ついていないのに,風で飛ぶ植物?」
「そんな植物があるのですか。」
「それはね,このケヤキだよ。くわしい説明の前に,ケヤキの種子ってどこに付いているか分かるかな。よく見てごらん。」
ケヤキ風散布型
「種子って,葉っぱの柄のところにある小さなかたまりですか。」
「ピンポーン。そのとおりだね。とても小さいだろう。だからね・・・もう分かったかな。種の周りにいろいろあるだろう。」
「あ! そうか,分かった。つまり,ケヤキというのは,種子が枝に付いたままで,枝の葉が翼の役目をして,飛ぶということなんですね。」
「そうだね。ケヤキは枝ごと折れて,それで風を利用して種子を遠くへと移動させ,子孫を増やしていくんだよ。ここにたくさんのケヤキの種子付き枝があるから,高い所から落としてみよう。『百聞は一見に如かず』というだろう。さあ! 楽しい実験を始めよう。」
ケヤキという木について
ケヤキは,高さ20~25mにもなる落葉高木で,大きいものでは,40mを超すものもあり,天然記念物などに指定されている。東アジアを中心に分布しており,日本全国の丘陵地や山地などで見ることができる。なお,山地の河畔や河川,急峻な渓谷などが本来の自生の地であるようだ。樹形が見事で泰然自若として,堂々とした姿は天地を圧倒する雰囲気をもっている。木目が美しく建築用材・器具・楽器・彫刻材としてもよく利用されている。また,庭木や街路樹としてもよく見かける木である。なお,材が堅く強いので,餅つきの臼と杵などにも使われる。
八王子市の多摩御陵・武蔵野陵の参道のケヤキ並木