3.動物の世界
(4)鳥のなかま
(552)鳥の視力と焼きそばパン事件
「モンタ博士! これは,どこかの海の写真ですね。」
「そうだよ。今から20年くらい前かな。むすめといっしょに海岸の自然観察に出かけた時のものだよ。」
「海岸ですか。いいですね。お嬢さんとお出かけして楽しかったことでしょう。」
「ところがどっこい。この時は,世にも恐ろしく残念な大事件があったんだよ。」
「大事件! 何か事故でもあったのですか。」
「今でもわすれられない大事件! それはね,『焼きそばパンゲット事件』さ。」
「『焼きそばパン? ゲット事件?』何ですか,それは?」
「モンタ博士たちは,海岸の植物や磯辺の貝殻などを拾ったりして,海岸でたくさん楽しんだ後に,さあ! お昼にしようということで,モンタ博士が焼きそばパンを取り出して,食べようとした時に悲劇は起こったのさ。」
「悲劇? どうしたのですか。」
「パックンと焼きそばを食べようとした瞬間,な,な,なんと,トビに焼きそばパンを取られてしまったというわけなんだ。」
「トビって,あの空を飛ぶ鳥ですか。」
「トビが降りてくる時に,モンタ博士は気がつかなかったのですか。」
「一瞬のことだったね。あれ! と思った瞬間には,トビが足で焼きそばパンをしっかりとつかみ,大空遠くに飛んでいってしまったのさ。」
「それは大変でしたね。トビは高い空の上から見張っていたのでしょうね。でも,モンタ博士もお嬢さんもケガがなくてよかったですね。」
「それにしても,トビって目がいいのですね。」
「そうなんだ。トビやワシ・タカなど猛禽類はおどろくほど目がいいんだよ。」
「モンタ博士! 目がいいといいますが,どのくらい目がいいのですか。」
「そうだね。人間のように視力検査はできないからね。でも,ある本によると,望遠鏡のように物が拡大して見えるのはではなく,遠くの物でもはっきりと見えるような,ハイビジョンのような,4Kや8Kのような高解像度の鮮明な画像が見えているそうなんだ。」
「へえー。すごいのですね。具体的にどのくらい見えるのですか。」
「ある人が調べたそうだけど,人間ならば100mくらいの距離でウサギの耳が立っているのは分かりますが,ノスリという猛禽類では,3km離れた所からでも耳が立っているかどうかが分かったそうなんだ。」
「すごいですね。おどろきですね。」
「さらに最近の研究では,目が良いだけではなく,人間が見えないものまで見ているということが明らかになってきたんだ。」
「人間が見えないもの・・・なんだろうなあ。」
「例えば,チョウゲンボウというタカ科の鳥は,人間の目では見えない紫外線領域も見えていることが分かってきているんだよ。」
「紫外線・・・何だかむずかしいお話になってきたみたいですね。」
「まあ,かんたんに言うと,チョウゲンボウの獲物であるハタネズミは,自分の通り道に尿を使ってにおいのマークをつける習性があるんだ。そこで,フィンランドの科学者が人工的にハタネズミのマークと同じ紫外線で見える通り道を作り,チョウゲンボウを放して実験をすると,紫外線で浮かび上がる道筋に興味を示したということなんだ。つまり,チョウゲンボウという鳥は,広い草原を飛びながら,ネズミの通り道を紫外線の見える目で探し,獲物にありついていたというわけなんだよ。」
「へえー,鳥ってすごいんですね。」
「よし! これからは,鳥についてもいろいろと勉強していこう!」
鳥目っていうけど,どういうことだろう?
鳥の目というと,夜はまったく物が見えない「鳥目」であるというのが定説になっています。ところが,実際の鳥の多くは夜でも空を飛んでいることが多く見られます。では,なぜ鳥は夜,目が見えないというのでしょうか。それは,人間生活にもっとも身近なニワトリが鳥目だからです。暗闇で寝ているニワトリに背後から近づき,そっと手で押さえると簡単に捕まえることができます。このようにニワトリが夜に目が見えないため,鳥全体が鳥目であるといわれているのです。特にニワトリは,視力自体が弱く,人間の約10%しか見えていないという報告もあるくらいです。