耳をすましてみよう
「そうだね。それでは,耳を使うということは,どういうことか考えてみようよ。」
「そうだ! 鳥の鳴き声を聞いたりするときには,耳を使いますね。」
「そうですね。それから,風の音を聞いたり感じたりすることもできるわね。」
「それから,葉と葉がこすれ合う音とかもいいんじゃないかな。」
「虫やセミの鳴き声,そのほか,いろいろな生き物のようすを観察するときも,耳を使うといいね。では,耳の次には,鼻を使ってみようか。」
「鼻でにおいをかいでみようというのは,植物の観察をするときに,よくやりますね。」
「そうだね。葉っぱって,いろいろな香りやにおいがあるんだね。」
鼻でにおいをかいでみよう
「葉っぱを少しちぎってみると,いいにおいがしますね。この前,ヨモギつみをしたけど,とてもいいにおいでしたね。それから,ミカン科やクスノキ科,それからシソ科の植物もいいにおいがしますね。」
「木や草の香り,それから花の香りって,いろいろあって楽しいよね。」
「そうだね。クンクンと犬になったつもりで,これからも,いろいろなにおいをかいでみてごらん。とても楽しいと思うよ。」
「口で味をみるというのは,食べてみるということですね。」
「ぼくは,食べることが大好きだ。」
「私も大好き。味にはあまいとか,からいとか,すっぱい,しょっぱいとか,いろいろな味がありますね。」
口で味をみよう
「植物によってもいろいろなちがいがあるのかな。」
「うん。そうらしいよ。キク科の植物は少しにがいし,アブラナ科の植物は,少しからいそうなんだって。そうですよね。モンタ博士。」
「そのとおりなんだ。キク科のフキなどは少しにがみもあるし,アブラナ科のワサビはとてもにがみがあるね。でも,何でもかんでもお口に入れてはいけないよ。植物には毒になるものもあるしね。特にキンポウゲ科やケシ科植物には気をつけたほうがいいね。植物を口にする場合には,その場にいる先生などに教えてもらったものだけにすることだね。」
「はい。よく分かりました。手でさわって,耳をすませて,鼻でにおいをかいで,それから,口で味わうことが大切なんですね。」
「手,耳,鼻,口・・・あれ? 4つしかないぞ。何かわすれているぞ。」
「あ! そうだ。目をわすれていたわ。目で見ること,観察することをわすれてはいけませんね。」
目で見てみよう
「そうだね。目は一番よく使うものだね。でも,自分の目で観察する方法にもいろいろとあるんだけど,分かるかな。」
「ただ見るということではないんですね。」
「そうだよ。ウルトラマンになったつもりで
大きく
見ることや,アリさんになったつもりで
小さく
細かいところまで見ることも
大切だね。それからね,
肉眼ではなく,ルーペや
顕微鏡を
使って見ることも
楽しいよ。くわしくは『てくてく
自然散歩』の
次号No.550を見るといいよ。」
五感の活用
目,耳,鼻,口,手などの感覚器官をフルに使い活用することは,感性の陶冶につながると考えられる。しかし,昨今の現代人は,見えるものだけにとらわれ,生活していないだろうか。ある意味,動物的な鋭い感覚(五感)の訓練を子供の時代にしっかりと行い,身に付けさせてあげたいと思う今日このごろである。
以下,五感を使うことの大切さを記した先哲の言葉を抜粋紹介します。
☆コメニウス『大教授学』より
認識を司る悟性と,認識の対象(異物)とを仲立ちするものは感覚内容であり,故に感覚内容がなくては,認識は成立することができないと述べている。これは言い換えれば,感覚内容は思考の素材であるということである。
☆ルソー『エミール』より
触覚はすべての感覚の中で,外部の物体が私たちの体に与える印象をよく教えてくれるものとして最も頻繁に使用され,私たちの自己保存に必要な知識を最も直接的に与えてくれるものとなっていると述べ,触覚の重要性を強調している。そして,幼年期のエミールに対して,自然物の観察や工作による感覚の訓練を行っているのである。幾何学,天文学,地理学,化学などの学習は,12歳を過ぎてから行うことを主張している。また,幼年期において感覚に訴える体験をさせることにより,体験に裏付けられた「身に付ついた知識」が獲得できるといっている。
☆モンテッソーリ『自発的教育』より
感覚の発達は,高次の精神的な活動力の発達に先行している。そして,子供は3歳から6歳までが,その活動力の形成の時期である。従って,この発達期において感覚の発達を促進する必要がある。さらに,3歳から6歳までの時期は,急激な身体的発達の時期を含むものであり,知力と関係のある感覚の活動力も生じてきて,五感が開けてくると述べている。