1.身近な自然の観察
(1)昆虫と植物
(542)モンシロチョウと菜の葉
「ぽかぽかしてきて,いよいよ春だね。オー君。」
「そうだね。何をするにも最高の季節だ。あ! モンシロチョウがいる。」
「ちょうちょうと言えば,やっぱりこの歌ね。
♪ちょうちょう ちょうちょう 菜の葉にとまれ
菜の葉にあいたら さくらにとまれ♪」
「あれ? その歌,どこかおかしくないかな。」
「え! 何がどうおかしいの。」
「モンシロチョウは,菜の葉には来るのは分かるけど,サクラにも来るのかな。」
「よく気が付いたね。さすがはオー君だね。この童謡『ちょうちょう』という歌にはひみつがあってね,もともとはわらべ歌だったこの歌の歌詞はね,
♪菜の葉がいやなら この葉にとまれ♪
だったんだよ。」
「へえー。そんなひみつがあったのですか。知らなかったです。おどろきです。」
「モンシロチョウのなかまは,みんなアブラナ科の葉っぱを食べるのは,よく知られているけど,このひみつは知りませんでした。ところで,花ちゃん,モンシロチョウはどうやって,アブラナ科の植物を見つけるか,知ってる?」
「それは,その・・・,目で菜の葉を見つけるのでしょ。」
「そう思うでしょう。ところがどっこいちがうんだな。モンシロチョウはね,足の先端でアブラナ科から出る物質を確認することができるんだよ。つまり,足先にセンサーが付いているんだね。」
「へえー。そうなんだ。足先で確認してから,菜の葉に卵を産みつけるということね。すごいね。でも,よく考えるともっと分からないことがあるわ。」
「何がどう分からないの。」
「どうしてモンシロチョウの幼虫は,アブラナ科の植物しか食べないのかな。好ききらいなくいろいろな葉っぱを食べた方が,いろいろな所で生きていけるのではないかなと思ったの。」
「そう言えば,そうだね。これまた不思議であるし,疑問でもあるね。」
「二人ともとてもいいことに気が付いたね。今日は,モンシロチョウと菜の葉,それから,虫と食草との関係についていっしょに考えてみよう。」
「そうしましょう。そうしましょう。」
「でも,どうやって考えていけばいいのかな。」
「そうだね。それでは,植物の身になって考えてみようよ。」
「植物は,自分の体を食べにくる虫たちに対して,何もしないのかな。」
「植物は,虫に葉を食べられないようにするために,植物の体の中に,何か毒とかいやなものをためるのですか。」
「そうだ。そのとおり。植物は,忌避物質というものを体内にためこむことをしてきたんだよ。では,ここで,虫の立場になって考えてみようか。」
「虫も葉っぱを食べないと,死んでしまうな。それでは,困りますね。」
「そこで,どうすると思う?」
「そうか,虫は体の中に,葉っぱの毒を分解したり,効き目を少なくしたりするものを持っているんだ。そして,何とか葉を食べようとするんだ。」
「そうだね。でも,植物というのはいろいろあるし,毒の物質や性質にもいろいろと種類がたくさんあってたいへんだろう。そこで,どうすると思う。」
「そうですね。植物の種類が多いから,ターゲットとなる植物をある特定のものに限定すれば,いいのかな。」
「そうか。虫は,食草となる植物をしぼって,毒の物質や性質を知りつくして植物の守りを破る方法を考えるということですね。」
「そのとおり。モンシロチョウは,アブラナ科の植物と決めて,対処していく方法を生み出していったんだよ。」
「アゲハチョウは,ミカン科の植物と,アオスジアゲハは,クスノキ科のクスノキと決めて,あれこれと工夫し対応してきたというわけですね。」
「でも,アブラナ科の植物も負けていないと思います。さらに新しい守りの方法を考えるんですね。」
「つまり,植物と虫では,そうやって特定の関係が生まれてきたんだ。昆虫,特にチョウが特定の植物しかエサにしないというのは,こういう理由からなんだよ。」
「昆虫と植物って,すごい関係なんですね。」
「長い年月をかけて,そういう関係ができあがってきたんだ。昆虫と植物とは,競争しながら共に進化を続けてきたし,今後もそういうことが続くんだね。」
モンシロチョウとスジグロシロチョウ
モンシロチョウとスジグロシロチョウは,どちらもよく
似た
種類の
白いチョウです。
共に
同じアブラナ
科の
葉を
食草としています。ただ,
生育場所は,モンシロチョウはキャベツ
畑やダイコン畑などの
日なたでよく
見かけます。それに
対して,スジグロシロチョウは,イヌガラシやスカシタゴボウなどの
野生のアブラナ科を
好む
傾向があり,
林の
縁や
日陰の場所などにいることが
多いようです。
この
違いはなぜあるのでしょうか。キャベツは,
長い
間に
人間が
改良を
重ねてきた
品種です。キャベツが
一般に
植えられるようになる
前は,モンシロチョウも野生のアブラナ科を
食べていたのでしょうか。モンシロチョウの
中に日陰より日なたを
好み,キャベツを
好む
種が
出現してきて,スジグロシロチョウと
分かれたのでしょうか。
長い
年月をかけて,
植物や
虫が
変化してきたことは,
不思議で
分からないことも
多く,とても
興味深いものです。