1.身近な自然の観察
(4)生物と日本人のかかわり
(395)ツバキのつぶやき
「モンタ博士! 今日は『ツバキ』を科学するんですね。」
「つまり,ツバキの形や色,その他のことについて,なぜそうなのかいろいろと勉強することですね。」
「そうだね。それではみんなでいろいろ考えていこう。分からないことや疑問に思ったことなど,何でもいいから聞いてよ。今日は質問会にしよう。」
「まず,どうして『ツバキ』という名前になったのですか。」
「よく見てごらん。ツバキの葉っぱは『つや』があるだろう。それで,『つやき』が『ツバキ』になったのさ。また,厚い葉なので,『厚葉木』が由来さ。」
「でも,モンタ博士! どうしてツバキの葉って,そんなに光っているのですか。」
「いい質問だね。そのようになぜ? どうして?と不思議に思うことが大切だね。あのね,ツバキの葉のように光っているものには,葉の中にクチクラというワックス層があるからさ。」
「え! クラクラ? むずかしいお話だと,頭がクラクラするよ。」
「そうじゃないよ。クチクラとは,もともとはラテン語で,Cuticulaと書くんだけど,英語読みすると『キューティクル』ということ。シャンプーやリンスのコマーシャルで聞いたことないかな。」
「そういえば,聞いたことあるわ。髪の毛のキューティクルを守るとかいうわ。」
「キューティクル,つまりクチクラは,表面をおおうワックスとして,葉っぱの内側を乾燥などから守るはたらきがあるのさ。」
「なるほど,ツバキが冬の乾燥や寒さをがまんして,緑の葉っぱをつけていられるというのは,このクチクラとういうもののおかげなのですね。」
「それだけじゃないよ。このように葉の表面がテカテカに光るような木,これをむずかしい言葉で照葉樹というけど,自動車の排気ガスやけむりなどからも葉っぱを守っているのさ。」
「なるほど,そういうことなんですね。ところで,ツバキって,花もステキね。」
「そうだね。ツバキはね,もともと日本に昔からあった木でね,美しい花をながめるためにも,古くから庭に植えていたらしいんだ。」
「山から持ってきてお庭に植えたんですね。」
「それで,ツバキには白やピンク,それに八重咲きといって,花びらがたくさんのものもあるんだよ。」
「え! ツバキって,赤だけじゃないのですか。」
「園芸品種といってね,室町時代からいろいろなめずらしいツバキを作ってきたそうなんだ。江戸時代はとくにたくさんの種類ができたらしいよ。下の絵は,その園芸品種だね。花びらがたくさんあるのが分かるかな。」
ツバキのつぶやき
ツバキは日本の花なのよ。学名もカメリア・ヤポニカというの。野生種としては,本州以南の暖地に広く自生するヤブツバキと,日本海側の多雪地帯にその分布が限られる変種のユキツバキというのがあるのよ。ツバキははるか上代から人々に身近な花だったの。古事記や日本書紀にもその名が登場するんだからすごいでしょ。長生きで四季を通じて青々とした葉をつけ,花の少ない冬から早春に見事な赤い花を咲かせるツバキは繁栄の象徴でもあったの。ツバキは材が緻密で堅く,木槌の他にも木魚や楽器などにも使われたんです。また,種子からは高価な椿油が採れて,油かすもシャンプー代わりにできるんですからね。ツバキがヨーロッパに紹介されたのは,18世紀ごろなのよ。西洋では常緑樹が少なくて,艶やかで緑の葉と赤い情熱的な花は人々に驚きと感動を与えたということなのよ。つまり,あちこちで私は称賛されてしまったのね。フランスではツバキのコサージュがめちゃくちゃに流行したそうで,美しい貴婦人の皆様のドレスを飾ったのも私なのよ。すごいでしょ。デュマ・フィス作,ベルディ作曲のオペラ「椿姫」が熱狂的に支持されたのもこの頃のことね。もう懐かしいお話ね。