3.動物の世界
(5)ハチのなかま
(254)ハチのひみつの世界 4 「狩りバチ」
「きのうは,寄生するハチのお話でしたね。」
「今日は,どんなお話をしてくれるのかな。」
「きのうの寄生バチは,体の中にたまごを産みつけたね。でもね,そのうちにたまごを体の中でなく,表面に産みつけるハチがあらわれたんだ。」
「でも,そんなことができるのかな。」
「花ちゃん,どうしてそう思うの。」
「だって,動いている虫の表面に産みつけたら,せっかくのたまごがポトリと落ちてしまうわ。」
「そうだよ。それに,その虫にたまごがふみつぶされてしまうかもしれないよ。」
「そしたら,たまごがだめになってしまうわ。」
「そうだね。そこで,動いている虫にたまごを産むために,産卵管の付属腺というものを,毒腺というものに変えたんだ。」
「毒腺? なんですか。もう少し分かりやすくお話ししてください。」
「つまりね,虫が動き回らないように,また,虫の動きをまひさせるために毒液を出すようにしたのさ。ようするに麻酔だね。」
「つまり,
歯医者さんに
行って,
虫歯がひどくなると,
歯の
神経をとるときに『ちくり』と
注射するけど,それと
同じなの。」
「そのとおりだね,うまいたとえだね。神経がしびれて,歯のいたみがなくなると同じなのさ。」
「ハチにちくりとさされて,虫がぐにゃりとなってしまうのね。」
「そうすれば,たまごは落っこちないし,ふまれたりしないわけだ。」
「そのちくりとさされた虫は死んでしまったのですか。」
「死んでしまったのではないんだよ。殺してしまっては,そのうちくさってしまうだろう。そして,カビがはえたり,えさにはならなくなるだろう。」
「つまり,体に毒針をさして麻酔して動けなくさせるんだ。」
「そうだね。それまでのハチはたまごを産むための『道具』だった産卵管が,相手をやっつける『武器』になったというわけなんだ。そして,そういう虫のことを『狩りバチ』というんだ。」
「モンタ博士! どんな狩りバチがいるんですか。」
「そうだね。狩りバチというのはね,それはそれはいろいろな種類がいてね,狩りや生活のようす,えさなどもいろいろなんだ。とてもバラエティーにとんでいて,それはそれはおもしろく,めちゃくちゃわくわくドキドキの世界だよ。」
「モンタ博士! いろいろな狩りバチのお話をして!」
「それでは,もっともふつうに見られるジガバチのお話をあしたからしようね。」
「うわあー,ヤッター! あしたが楽しみだ。」
自然の奥深さ
ハチは獲物の複雑な神経系組織をよく理解して,考えながら針を刺しているのでしょうか。そんなに賢いのでしょうか。どうやら,いろいろな実験をやっていくと,そうでもないということが最近分かってきたようです。ハチの行動は全て本能の命令,本能の与える霊感のままのようです。昆虫は自分のしていることを自分の頭で少しも理解していないということが分かってきました。つまり,本能に突き動かされて,どうしてもそれをしないではいられないようです。では,その本能の命令はどこからくるのでしょうか。生物学的にはいろいろな学者がそれなりの説を述べています。例えば,親の素質が子供に伝えられたという遺伝説。強い者,また環境に適応した者だけが生き残れるという自然淘汰説などいろいろありますが,どれも本能の不思議な働きを十分に説明しているとはまだまだいえないようです。人間の頭で考えたり,説明しきれない奥深く崇高で神秘的なものが昆虫や植物・自然の世界にはまだまだたくさんあるのではないでしょうか。