2.植物の世界
(4)被子植物(単子葉類)のなかま
(86)ヒガンバナのひみつ ①
「あ! ヒガンバナだ。このお花って,秋のお彼岸のころにさくから,ヒガンバナっていうんですよね。」
「そのとおりだよ。さすが,植物博士の花ちゃん。よく知ってるね。感心だね。」
「モンタ博士,このヒガンバナって,何か変だな。」
「オー君,何が変なのかな。」
「ふつう植物は,葉っぱがたくさんあるでしょう。でもこいつには,葉っぱが1枚もないよ。植物のつくりでお勉強したけど,ふつう植物は,根と茎と葉からできているんでしょ。でも,このヒガンバナは違いますね。」
「そのとおり,さすがはオー君。よく観察しているね。1つの植物を見た場合,他のものと比較して見ることはとても大切な見方だね。難しいことばで相違性というけど,よく違いに気がついたね。感心だね。」
「ヒガンバナという植物は,葉っぱなし植物? というわけですか。」
「あのね,ヒガンバナはね,花が終わって10月ごろから葉っぱが出てくるんだよ。そして,冬の間は青々した葉を見せてくれるんだ。ところが,5月ごろになると,葉がかれて,地表には何も見えなくなるんだ。本当かなと思ったら,自分でヒガンバナの球根をほっておうちに植えてみるとよく分かるよ。モンタ博士もおうちに植えてあるんだ。1年中観察できるし,『けいぞく観察』できて,とっても楽しいよ。」
「なるほど,それはおもしろそうですね。ぼくもチャレンジしてみます。」
「でも,モンタ博士。ヒガンバナには毒があるって聞いたことがあるわ。私は,ちょっとこわい感じだわ。」
「毒といっても,手でさわるくらいなら平気だし,口に入れなければ大丈夫だよ。それに,昔の人は,食べるものがない時に,ヒガンバナの球根を砕き,水にさらして食べたということだよ。毒草というのはいろいろあってね,薬にもなるものもあるんだ。スイセンやスズラン,それに,フクジュソウだって毒草だよ。まあ,毒草のお話は,またそのうちにしてあげよう。」
「ね! 花ちゃん。この花,真っ赤でなかなかきれいだね。」
「ほんとだ。あざやかな色よね。なんかエキゾチックな風情がある(異国のふんいきがあること)感じね。あ! この花,花びらが6枚ある。ということは,ユリの仲間なのかな。」
「さすが,花ちゃん。いいところに気がついたね。感心だね。ヒガンバナは,ユリの仲間に近くて,どちらも単子葉類という仲間だよ。植物を観察するときに,何に似ているか,何の仲間かなと見る見方はとても大切なことなんだ。難しいことばで共通性というけど,観察では,相違性と共通性に気をつけて見ることがとっても大事なポイントなんだね。
」
「相違性と共通性ですね。オー君。よく覚えておこうね。」
「そうだね。ところで,ヒガンバナって,どんな実や種ができるのかな。」
「それも,いい質問だね。ヒガンバナは花がさいても,実や種はできないんだ。そういうちょっと変わった植物なんだ。」
「え!それでは,実や種がなくてどうやって増えていくのですか。」
「そうだ。本当に不思議だ。どうしてですか。モンタ博士。」
「植物にはね,種で増えるものと,根や葉や茎などの栄養器官から増えるものがあるんだよ。くわしくはまた今度お話ししてあげるね。」
ヒガンバナは三倍体植物
植物には,種で増える有性生殖(種子生殖ともいう)と,根や葉や茎などの器官から胚・種子を経由せずに次の世代の植物が繁殖する無性生殖(栄養生殖ともいう)とがある。植物は,ふつう偶数倍数体であれば,減数分裂をして正常な生殖細胞をつくることができ,種子繁殖で,遺伝的な多様性を維持することが可能となる。しかし,日本のヒガンバナは3n=33本の染色体を有し,三倍体であるために減数分裂がうまくいかず,生殖細胞が正常にできず種子はできない。そこで,栄養繁殖のみで増えるのである。いわば,日本のヒガンバナはクローンということで,遺伝的に均一ということである。なお,中国のシナヒガンバナという植物は,2n=22の染色体をもっているので,種子はできるそうであるが,未だ見たことはない。