1.身近な自然の観察
(5)自然観察・実験のてびき
(20)花や葉のにおいで植物を観察しよう(キンモクセイ・スイカズラ)
「モンタ博士,この前の五感の話の続きをして!」
「ほい,きた,待ってました。ところで,植物の観察と虫の観察とでは,大きなちがいがあるんだけど,気がついているかな。」
「うーん。そうだな。そう言われると,こまっちゃうな。」
「あのね,動物や昆虫は,動くことができるでしょう。動きがあるものってのは,興味もわきやすいし,見ているだけでも,いろいろと分かるよね。でもね,植物は動かないね。それがヒントだよ。」
「そうか,植物は自分では動かないから,こっちから,いろいろと動けばいいというわけね。」
「そうだね。こっちからいろいろと動いてみるために,目だけでなく,鼻や口や耳や手を使えばいいということだよ。」
「それが,五感を使うということだね。」
「葉っぱは見ているだけでは,どれも緑色していて同じように見えるけど,実は,葉っぱには,それぞれいろいろなにおいがあるんだよ。それをだまって見ていないで,葉っぱをちぎってにおいをかぐということが大切な観察方法というわけだね。」
「分かった。自分からいろいろと動いて,鼻を使えばいいんだ。」
「お花でも,キンモクセイ,クチナシ,スイカズラ,ジンチョウゲなどは,とてもいいにおいよ。」
キンモクセイ スイカズラ
「へんなにおいのする植物もあるのかな?」
「私,知ってるわ。ドクダミって,ちょうへんなにおいがするわ。」
「ドクダミって,ぼくも聞いたことがあるよ。うちのおばあちゃんが,薬になるって言っていたよ。ドクダミ茶って飲んだことあるんだ。」
「薬になる植物は,たくさんあるんだよ。もともと,植物の研究の始まりは,植物をどうやって薬にしようかというところから始まったんだよ。」
「だから,薬という字は,くさかんむりなんだ。草を食べて,体が楽になるというわけね。」
「なるほど,ぼく,勉強になったぜ。」
「話がそれてしまったけど,薬になる植物のことは,また今度,ゆっくりとお話ししてあげよう。ところで,オー君に質問だけど,アゲハチョウの仲間はどんな葉っぱを食べるんだったっけ?」
「決まってら,ミカンのなかまだよ。当たりだろ,モンタ博士。」
「そのとおり,さすがは,虫博士だね。ミカンの仲間は葉っぱをちぎると,みんな同じようなにおいがするんだよ。ミカン科の植物の特徴だね。」
「ほかにも,よくにおいのする植物ってあるの?」
「またオー君に質問するけど,アオスジアゲハは何を食べていたっけ?」
「クスノキだよ。そういえば,あれも葉っぱをちぎるとにおいがしたな。」
「そうだよ,クスノキ科,シソ科,セリ科など,それぞれ,特徴のあるにおいを持っているんだよ。」
「私も,これからは,目で見るだけではなくて,一つ一つ葉っぱをちぎってにおいをかいでみることにするわ。ねー,オー君。」
「でも,必要最低限にしなくちゃいけないんだ。だってぼくたちがいっぱいとっちゃったら,チョウの食べる葉っぱがなくなっちゃうもんな!」
「まあ,そういう考え方もあるけどね。」
自然の認識には・・・
小学校の植物教材として使われるアサガオやヒマワリなどの栽培植物は,人間によって管理されたものであり,それらの観察だけでよいのだろうか。栽培植物をもとにして,野外植物の自然状態の観察に発展するように指導しなければ,自然の認識には,ほど遠いものになってしまうように考えられる。
自然の認識は,やがては人間生活の在り方,個人の人生観にも深い関係があるように思う。こういう意味で,自然の事物・現象を対象とする理科教育は,人間教育の一面をずっしりとになっている領域であると,私は考える。
植物の教育というのは,植物の抽象された知識を説明したり,教えこむことではなく,特に野外で自然に生えている植物の生きざまを調べる方法を身につけさせることではないだろうか。